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我がもの顔で道路を占拠する「奈良のシカ」 誰かが別の場所に「移動」させてもいい?
車道に集まっているシカたちの様子がYoutubeで流れている

我がもの顔で道路を占拠する「奈良のシカ」 誰かが別の場所に「移動」させてもいい?

夕涼みをするために、奈良公園のシカたちが道路に続々と集結。そんな異様な光景の写真や動画がツイッターで拡散されて話題になっている。我がもの顔で歩くシカたちは、歩道だけでなく、車道も占拠している。すぐそばを自動車が通過していくので、危険な光景にもみえる。

この奈良公園のシカたちは、誰が管理しているのか。奈良県のホームページによると、国の天然記念物に指定されている野生動物で、誰かが所有して、飼育しているわけではないそうだ。

ネット上では「事故が起こらないか心配」「管理しろよ」という意見もある。もし仮に、「交通事故が起こらないように」と考えた人が、シカを捕獲して別の場所に追いやったとしたら、法的に問題があるのだろうか。動物問題にくわしい細川敦史弁護士に聞いた。

●天然記念物にケガを負わせたら犯罪?

「奈良公園のシカは、1980年代に春日大社が所有権を放棄して以来、所有者がいない状態です。また、1957年には、文化財保護法に基づく国の天然記念物に指定されています。

文化財保護法では『天然記念物の現状を変更し、またはその保存に影響を及ぼす行為をして、これを滅失し、き損し、又は衰亡するに至らしめた者は、5年以下の懲役または30万円以下の罰金に処する』と定められています」

では、シカを捕獲すると、犯罪になるのだろうか。

「さきほどの規定を奈良のシカに当てはめてみると、シカの現状に手を加えたり、個体数に影響を与える行為をしてはならないと考えられます。

捕獲や移送の過程で、シカがけがを負ったり、死亡したりすれば、罪となる可能性が高いでしょう」

なるほど、奈良県のホームページにも「個人が捕まえたり、傷つけたりすることは違法行為です」と書かれていたが、このような法的な理由があったのか。

●シカを撃ち殺して「実刑判決」というケースも

実際に裁判になったケースもあるのだろうか?

「シカ肉を売る目的で奈良公園のシカをボーガンで撃ち殺した男性が、文化財保護法違反の罪で起訴され、2010年に懲役6カ月の実刑判決を受けています。

ただ、判決の量刑は、その被告人の前科前歴など、報道されていない事情も考慮されるので、このケースだけを見て、奈良公園のシカを殺すと実刑判決を受ける、と一概にいえません」

では、危険な状態のシカを見かけた場合にはどうすればいいのだろうか。

「良かれと思ってしたことでも、違法と判断される可能性があるので、自分たちだけで何とかしようとせず、『一般財団法人奈良の鹿愛護会』など関係者に連絡して、適切に対応してもらうことが相当でしょう」

細川弁護士はこう締めくくった。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

細川 敦史
細川 敦史(ほそかわ あつし)弁護士 春名・田中・細川法律事務所
2001年弁護士登録。交通事故、相続、労働、不動産関連など民事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。NPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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