事故を3回起こしたにもかかわらず、高齢の父が車の運転をやめようとしないーー。高齢運転が社会問題化するなか、このような相談が弁護士ドットコムに寄せられた。
相談者によると、父親は3回事故を起こしているが、いずれも物損の単独事故だったため、引き続き運転ができる状態にあるそうだ。免許返納を説得しても聞き入れず、相談者は将来的に人身事故を起こすのではないかと心配している。また、損害賠償が発生した場合、相続への影響も気がかりだという。
父親の運転をやめさせることはできないのか。相続に影響することはあるのか。鬼沢健士弁護士に聞いた。
●家族が強制的にやめさせることは難しい
ーー父親の運転をやめさせることはできないのでしょうか。
本人が免許の返納を望まないかぎり、基本的に運転をやめさせることは家族でもできません。どうしてもやめさせたい場合は、たとえば、車のカギを隠す、車自体をなくすなど、物理的に乗れないようにする方法が考えられます。
生活する上で自動車の利用が必要不可欠となっている場合には、自動車を使わない生活ができるように環境整備等の準備から始め、根気よく説得する必要があるでしょう。
ーー父親の保佐人や成年後見人になれば、やめさせることはできますか。
いいえ。その場合でも直ちに運転免許が失効することはありませんし、本人が免許返納に不同意のままであれば手続きもできません。
免許更新期間満了時になると、75歳以上のドライバー宛に警察から認知機能検査等の通知が送られてきます。この検査を受けて「認知症のおそれがある」とされ、医師から認知症と診断された場合には、免許の更新ができなくなります。
●人身事故で賠償責任→相続に影響も…
ーー相談者は父親が人身事故を起こすのではないかと心配な様子です。万が一事故が起き、巨額の賠償責任を負った場合、相続に影響はありますか。
車両の任意保険に入っていれば、保険契約の範囲内で保険会社が賠償金を支払ってもらうことができます。任意保険に未加入であれば、基本的には運転者が賠償責任を負います。
運転者が亡くなっている場合、賠償責任は相続人が負うことになります。賠償額が多額であれば相続放棄も視野に入れるとよいでしょう。放棄することで賠償義務はなくなりますが、故人の貯金や不動産といったプラスの財産も併せて相続できなくなります。
ーーまずは、何よりも人身事故が起きないようにすることが必要ですね。
はい。いずれにせよ、基本的には本人の免許返納の意思が必要になりますので、ご家族の熱心な説得と車が必要なくなる生活環境を整えることが重要といえるでしょう。