不登校の子どもたちを国や自治体が支援する議員立法の教育機会確保法が12月7日、参院本会議で可決、成立した。
報道によると、超党派の議員連盟は、当初はフリースクールなど学校以外の場での学習についても、義務教育として認定する制度を検討していたが、自民党内から「義務教育は学校が担うべき」「不登校の助長につながる」などの反対意見が強く、共産党からも慎重論があり、大幅に修正した。
成立した同法では、不登校の子どもの教育機会の確保のため、国や自治体が財政支援に努めることや、国や自治体が子どもや親に情報提供をすること、義務教育が受けられなかった人向けに、自治体が夜間中学などで就学できる措置をとることなどが盛り込まれている。
フリースクールに通う場合でも義務教育として認定されるとした当初の案は注目を集めていたが、結果として、大幅な変更に至った。この流れをどう評価すればいいのか。多田猛弁護士に聞いた。
●旧法案に対する「不登校を助長する」との批判
昨年の法案段階の記事(「『戦後教育の転換点になる画期的な案』フリースクールでの義務教育案を弁護士が分析」https://www.bengo4.com/other/1145/n_3741/)でもコメントさせていただきましたが、日本国憲法で保障されている教育を受ける権利は、場所を学校に限定していません。何らかの事情で学校教育が十分に受けられない子どもの学習権を保障するためにも、教育機会確保法が目指す理念の方向性は正しいと評価することができるでしょう。
ただ、本法においては、その成立過程において賛否両論があったことも事実です。フリースクールや家庭での教育を一部義務教育と認めることを内容とした旧法案の段階から言われていた批判には、「むしろ不登校を助長する」という意見がありました。今回、フリースクールや家庭での教育を義務教育と認めることが見送られたことは、この批判を受けてのことでした。
●賛成論「多様な学習活動が正面から認められた」「学校と民間団体の連携に注目」
一方、不登校の児童生徒を支援する団体や、フリースクールの関係者の間でも、本法に対する賛否の意見がわかれていることには注目すべきです。賛同する立場からは、本法は「学校以外の場において行う多様で適切な学習活動の重要性」が正面から認められ、不登校児童生徒の「休養の必要性」、「意思を十分に尊重」することが認められたことを歓迎し、不登校の児童生徒に対する施策の重要な一歩であると評価します。国や自治体に、学校とフリースクール等の民間団体との間の連携を求めていることも注目に値します。今までは、学校とフリースクールとの相互理解が不十分であったことが問題視されていました。
●反対論「一部の子どもの排除につながりかねない」「学校の責任を放棄している」
一方、本法に反対する立場には、大きく分けて2つの方向性があると私は分析しています。一つは、本法が不登校の児童生徒の学校復帰が前提であり、子どもたちを追い詰めかねないという批判です。この立場は、旧法案への回帰を求める方向性に近いといえます。
もう一つの反対意見は、本法の方向性そのものに異議を唱える立場です。本法は、「児童生徒」と「不登校児童生徒」を定義規定の中で区別しており、不登校の児童生徒に対する差別を助長しかねないという指摘があります。本法には「特別に編制された教育課程」の設置が定められており、このように子どもをカテゴリー化することは、教育現場において一部の子どもの排除につながりかねないと懸念します。そして、不登校の児童生徒に責任を押しつけ、学校の責任を放棄していると批判します。学校環境を整備し、居心地の良い場所にすることが先決、というわけです。
●現場における具体的な対応こそが重要
以上のような批判は、もっともな部分が多く含まれています。ただ、不登校の子どもの数は高止まりしており、いじめなどが理由で自殺する子どもの数もなかなか減少していない状況を少しでも改善するための施策が必要なことは間違いありません。いじめなどで辛い状況にある子どもたちには、必ずしも学校教育のみに縛りつけることなく、安心して学習する多様かつ適切な環境作りが必要です。
本法は、抽象的な努力義務規定が多いですから、文科省の規則や通達、さらには自治体や学校の現場における具体的な対応こそ重要です。上記批判も踏まえた、真に子どものためになる取組みの継続が必要です。