政府はこのほど、原則禁止されている「混合診療」を拡大していく計画を閣議決定した。規制改革の一環で、まずはこの秋をめどに、抗がん剤から解禁していくという。
混合診療とは、公的な健康保険が適用される「保険診療」と、適用されない「保険外診療」を組み合わせて行うことだ。「保険診療」とは、健康保険が適用される診療のことで、国が定めた治療費の1~3割を自己負担すれば済む。しかし「保険外診療」は健康保険が適用されないため、医療機関が決めた金額を全て自己負担しなければならない。
このような混合診療は、これまで一部の先進医療をのぞいて、認められていなかった。もし保険診療と保険外診療を組み合わせた場合、その全体が「保険外診療」として扱われてしまい、治療費は「全額自己負担」となっていた。つまり、保険診療か保険外診療か、二者択一しかなかったのだ。
だが、そもそも混合診療がダメとされてきた理由は何だったのか。「解禁」が医療に与える影響について、鈴木沙良夢弁護士に聞いた。
●選択肢は増えるが、将来的には保険適用の治療が減るという指摘もあるが、どのような理由か?
――国が混合診療を禁止してきた理由は?
「国が混合診療を原則禁止してきたのは、次のような理由からです。
(1)保険診療で十分なのに、医師が患者に保険外診療を求めるようになる
(2)安全性や有効性が確認されていない医療が、保険診療と併せて実施されてしまう」
――どんな法律で決まっている?
「混合診療を禁止した法律の明文はなく、最近までは厚労省の解釈によっていました。ようやく2011年10月25日の最高裁判決で『健康保険法86条等の規定から混合診療が禁止されている』という判断が出ましたが、現行の健康保険法は正面から混合診療の禁止を定めているわけではありません。
この最高裁判決の補足意見でも、混合診療の禁止については、国会でも十分な議論がされてこなかったことが指摘されています。これまで運用が先行してきた制度といえるでしょう」
――混合診療が全面的に解禁された場合はどうなる?
「患者側にとっては、保険適用をされていない治療法や医薬品を使いやすくなり、選択肢が増えるといわれていますが、保険適用外の治療費は自己負担となります。
一方で日本医師会などは、国が財政難のいま、混合診療を解禁すれば、保険診療の範囲が縮小していく可能性を指摘しています。長期的には国民皆保険が骨抜きになるという懸念を示して、いるものと考えられます」
医療制度そのものが大きく変わる可能性も、指摘されているということだ。政府は国民に対して、十分説明をする必要があるだろう。