「パンツ一枚の姿で、所持品検査を受けた」。鹿児島県の県立高校で、財布を盗んだ犯人だと疑われ、下着姿で所持品検査をされたとして、鹿児島市に住む男性(22)が10月下旬までに、鹿児島県に対して損害賠償を求める訴訟を起こした。
共同通信によると、男性は訴状で次のように主張している。県立高校に在籍していた2010年当時、クラスメートが財布が紛失するという出来事があった。その際、男性のカバンから現金の入っていない状態で財布が見つかった。男性は身に覚えがなかったが、担任の教諭から「パンツ一丁にならんか」などと言われ、所持品検査を強制されたという。
いくら盗難された財布を探すためとはいえ、教員が強制的に生徒の「身体検査」をすることは認められるのだろうか。まして、「パンツ一枚」にさせることができるのだろうか。刑事手続きにくわしい荒木樹弁護士に聞いた。
●強制的に身体検査をできるのは、令状を持った捜査官だけ
「この問題については、さまざまな法的問題があり得ますが、ここでは『警察官ではない一般人が、捜査のために身体検査をしていいのか』という問題に絞って考えます」
荒木弁護士はこう切り出した。一般人でも、犯罪を明らかにするためなら、身体検査をすることができるのだろうか。
「結論として、捜査のための身体検査を行うことは、一般人には認められません」
なぜ、認められないのだろうか。
「その理由を説明する前に、『強制捜査』と『任意捜査』を区別しておきましょう。
犯罪捜査には、多種多様にさまざまな手法があります。それらは大きく分けて、『強制捜査』と『任意捜査』に区別できます。
『強制捜査』とは、逮捕や捜索、身体検査など、強制的に行う捜査です。原則として、裁判官が発する令状に基づいて、警察官などの捜査機関が行う必要があります。
もっとも、一般人でも、犯人を現行犯逮捕をすることだけは、刑事訴訟法で認められています。これは、一般人でも許される、唯一の『強制捜査』と言っていいと思います」
捜査機関ですら原則的に令状が必要なのに、令状を持っていない一般人が強制的に身体検査を行うのは、問題と言えそうだ。
●相手の同意を得ていれば・・・
それでは、「任意捜査」とはどんなことを指すのだろう。
「『任意捜査』とは、文字通り、被疑者の同意を得て、あるいは、被疑者の権利を侵害しない方法で行われる捜査です。これは一般人でも行うことが可能です」
具体的には、どんなことができるのだろう。
「たとえば、万引き犯人を説得して、盗んだ商品を提出させるといったことや、犯人の人相を聞き込みするといった方法が考えられます」
●下着姿にするのは同意があっても許されない
それでは、たとえば本人の同意を得て、身体検査を行えば、「任意捜査」として許されるのだろうか。
「かばんの中を開けさせたり、衣服のポケットを外から触るという程度であれば、本人の同意があれば許されるかと思われます。
しかし、着衣を脱がせて下着姿にさせて身体検査を行うことは、プライバシー侵害の程度が著しく、また、通常、相手が同意することがありえないと考えられます。
仮に、形式的に相手が同意したとしても、許されないというべきでしょう」
学校の中ということであれば、教員の指導の一環ということは言えないのだろうか。
「今回の問題は、犯罪捜査だけではなく、学校教育上の指導方法の問題や、学校の施設管理の問題といった側面もあり、単純には判断できないとは思います。
ただ、犯罪捜査という目的があってすら、一般人には許されないような身体検査行為は、教育指導や施設管理の手法としても『当然許されない』と考えるのが自然と思います」
荒木弁護士はこのように指摘していた。