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パルワールドは「ポケモン」のパクり?SNSで議論白熱、ゲームの著作権侵害はどんな場合に成立するのか
左がルカリオ(ポケモン)で、右がアヌビス(パル)。ポケモン図鑑(https://zukan.pokemon.co.jp/)とポケットペア社公式動画(https://youtu.be/IltMIJeK-1M?si=jG-EBYbwGztXz0BU)より

パルワールドは「ポケモン」のパクり?SNSで議論白熱、ゲームの著作権侵害はどんな場合に成立するのか

「ポケモンに関する知的財産権の侵害行為に対しては、調査を行った上で、適切な対応を取っていく所存です」

ポケモン社は今年1月、こんな発表をした。同月に発売され、人気となっているゲーム「パルワールド」に登場する「パル」という生き物が、ポケモンに似ているとSNSで指摘されており、ポケモン社に問い合わせが多数あったからだという。

「パルワールドはポケモンのパクりなのでは」という議論がSNSを中心に白熱している。

「パルワールド」を発売したポケットペア社の代表が1月22日、エックスで「パルワールドに関して様々な意見を頂いておりますが、パルワールドに関する制作物の監修は全て私を含めた複数人で行っており、制作物の責任は私にあります」と誹謗中傷をやめるよう呼びかける事態に発展している。

そもそもゲームの著作権侵害は、どのような場合に認められるのだろうか。著作権にくわしい橋本阿友子弁護士に聞いた。

●「パクり」で問題となるゲームの「著作権」とは?

——裁判で「パクり」が争われる場合は、どのような争点になるのでしょうか。

いわゆる「パクり」が争われるケースで問題となるのは、著作権のうち「翻案権」です。翻案とは、すでにある著作物をアレンジして、新たな著作物を創作することをいいます。

著作権者は翻案権を専有するため、自分の著作物を無断で利用して新たな著作物を創作した第三者に対して、翻案権に基づく差止めや損害賠償を請求することができます。

しかし、この請求が認められるためには、2つの著作物の間に「類似性」が認められなければなりません。

第三者のアレンジによって「似ている」とは言えない著作物ができあがった場合、それはオリジナルとは別の著作物なので、権利侵害にならないためです。

——この「類似性」はどのように判断されるのでしょうか。

裁判所は、この類似性を「表現上の本質的な特徴を直接感得」できるか否かで判断しています。そのうえで、新たな著作物が、アイデアなどの表現でない部分や、表現上の創作性がない部分で共通するに過ぎない場合には「類似性はない」と考えられているようです。

これは、著作権法が「創作性」のある「表現」を保護するものであることによります。

つまり、2つの著作物を比較して、共通部分が表現といえるか、表現上の創作性があるかが判断され、創作性のある表現が共通している場合に、権利侵害が成立します。

●放置少女事件と釣りゲータウン事件

——ディーエヌエーの釣りゲーム「釣りゲータウン2」が、グリーの「釣り★スタ」の著作権を侵害しているとして争われた裁判の控訴審では、釣りゲームではありふれた表現であるとして創作性を認めず、グリーの訴えを退けています。

ゲームの「パクり」問題でも同様に考えられており、「既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得」できるか否かが、判断基準とされています。

映画に似た視聴覚的効果を有するゲームは、著作権法上「映画の著作物」と捉えられており、具体的な判断においては、一つのまとまりのある著作物の構成要素を分析し、それぞれについて表現といえるか否か、表現上の創作性を有するか否かを検討し、そのうえで作品全体または侵害が主張されている部分全体の判断をおこなうという手法がとられていると考えられます。

ゲーム「放置少女〜百花繚乱の萌姫たち」の著作権が侵害されたとして、運営会社が「戦姫コレクション〜戦国乱舞の乙女たち」の運営会社を訴えた事件がありました。知財高裁は、この判断基準にもとづいて、原告の請求を棄却しています。

●ポケモンとパルの「類似性」はどう判断?

——では、もしも今回のケースで著作権侵害が争われる場合は、どのような争点が考えられるのでしょうか。

インターネット上の情報を基に検討しますが、ポケモンとパルのイラストが似ている点が問題視されているようですので、主な争点は、ゲームの「映画の著作物」としての側面というより、ゲームに登場するキャラクターのイラストの類似性になろうかと思います。

イラストの類似性についても、先ほど述べたように「表現上の本質的な特徴を直接感得」できるか否かを基準に判断されます。

ただ、イラストは、シンプルなものや既存のモチーフを基に描かれることも多く、その場合に既存の著作物が保護される範囲は狭くなる傾向にあるといえるでしょう。

ゲームには、神話に登場する神様がモチーフとして描かれたキャラクターが登場することも多いです。たとえば、北欧神話に登場するオーディンを描く場合、神話のオーディン像を忠実に再現するならば、誰もが隻眼で手に槍を持つ人間のようなイラストを描くでしょう。

したがって、体型や姿勢、服装、顔の輪郭、顔のパーツなどの表現が似ているかが問題となり、隻眼で手に槍を持つ人間という点でイラストが共通しているだけでは、権利侵害とはなりません。

同じように、カエルを擬人化した2つのイラストが、二足歩行、顔が大きく胴体を短く描かれている点で共通している場合、それらの共通点は、カエルを擬人化したイラストを描く際に誰もが描くものであり、やはり権利侵害とはいえないでしょう。

実在するカエルはオーディンといった神話上のキャラクターに比べて、誰が描いても、ある程度似た表現になりやすいため、保護される範囲はより狭くなります。

●メガニウムとラブラドンは似てるのか

——ポケモンとパルのイラストの「類似性」を判断する場合のポイントを教えてください。

似ていると言われているイラストはたくさんあるのですが、その中から、メガニウム(ポケモン)とラブラドン(パル)、ジュナイパー(ポケモン)とフェザーロ(パル)、マホイップ(ポケモン)とメリポップ(パル)をピックアップして、検討してみます。

メガニウムは、首と胴体の境目に、白色で縁取りされたピンクの花が咲いている点に特徴のある緑の恐竜様のポケモンですが、その特徴のある部分が、ラブラドンというパルと共通しています。一方で、胴体(特にお腹)の色、目、触覚などに違いがあります。細かい点でいえば、花びらの模様も違います。

左がメガニウム(ポケモン)で、右がラブラドン(パル)。ポケモン図鑑(https://zukan.pokemon.co.jp/)とポケットペア社公式動画(https://youtu.be/yYsc3bmKu80?si=ov18B04fZsEeyyD4)より

また、ジュナイパーとフェザーロは、いずれも緑の頭部に茶色の羽を有するキャラクターで、その配色から一見すると区別がつきにくい印象を受けます。ただ、目や鶏冠の形状が相違しています。

左がジュナイパー(ポケモン)で、右がフェザーロ(パル)。ポケモン図鑑(https://zukan.pokemon.co.jp/)とポケットペア社公式動画(https://youtu.be/nsmtuwTQ9Ew?si=vbfSTwi4i8KuyM7T)より

マホイップとメリポップも、体の形、肌感、耳が赤い点が共通しているように見えます。ですが、マホイップは耳と目がイチゴのように見えることから、ケーキを想起される一方で、メリポップは名前も相まって羊をモチーフとしたキャラクターであることは間違いなさそうです。

左がマホイップ(ポケモン)で、右がメリポップ(パル)。ポケモン図鑑(https://zukan.pokemon.co.jp/)とポケットペア社公式動画(https://x.com/Palworld_JP/status/1666901658109112321?s=20)より

また、やや興味深い観点として、トドドドン(パル)は、目(白い円形の真ん中よりやや上方に黒い点で眼球を示している)がヤドン(ポケモン)、頭部に生えている黄色の鶏冠のようなものはメッソン(ポケモン)、全体の形状がドオー(ポケモン)と、それぞれ共通しているように見受けられますが、全体として観察すると、どのポケモンとも似ていないようです。

こういった組み合わせによる類似は、著作権法上の類似と認められない傾向にありますが、名前も相まって似ていると感じたプレイヤーも多かったのではないかと思います。

――はたして、著作権侵害が認められる可能性があるのでしょうか。

イラストの類似性が争われた裁判例はたくさんあり、ある程度似ていると思われるイラストでも、類似性が否定されているものも少なくありません(LINEスタンプの「うるせぇトリ」が漫画「Mr.BEAK」と類似していると争われた事件など)。

イラストの翻案が争いとなった場合、特にシンプルなものについては、表現の幅が小さいことから保護範囲が狭く、類似性が容易に認められない場合も多いためです。

ただし、既存の著作物であるイラストが著名だった場合には、それに接する人が、特定のキャラクターを容易に想起しやすくなることから、類似性が認められやすくなるという考え方もあります。

ポケモンはいわずもがな、著名イラストであると思いますので、この点が類似性判断に影響を与え、権利侵害が認められる可能性も否めません。

プロフィール

橋本 阿友子
橋本 阿友子(はしもと あゆこ)弁護士 骨董通り法律事務所
京都大学法科大学院修了。2011年に弁護士登録。ベーカー&マッケンジー法律事務所などを経て、2017年3月から骨董通り法律事務所加入。エンターテイメント法務を専門とし、とりわけ音楽・ゲームに詳しい。著作権に関する著作多数。ピアニストとしても活躍。

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