フリージャーナリストの安田純平さんが、外務大臣に旅券(パスポート)発給を不当に拒否されたとして、国を相手に起こした訴訟で、東京地裁(品田幸男裁判長)は1月25日、旅券発給を拒否した処分の取り消しを命じる判決を下した。
●安田さんは旅券の再発行を拒否された
安田さんは2015年6月、内戦の続く中東シリアに入国したが、その後、武装組織に拘束された。3年以上経った2018年10月に解放されて、隣国のトルコから日本に帰国した。
2019年1月、武装組織に没収された旅券の再発行を申請したところ、外務大臣から同年7月、「トルコへの入国が認められない者」であるため、旅券法13条1項1号に該当するとして、旅券発給を拒否された。
安田さんは2020年1月、旅券法13条1項1号に該当する事実がないため、旅券発給を拒否した処分の取り消しや発給の義務付けを求める訴訟を起こした。さらに2022年12月には、国家賠償法に基づいて損害賠償550万円を求めて提訴していた。
●発給拒否の処分は「違法である」
東京地裁は、安田さんが「トルコの法規によりトルコに入ることを認められない者に該当する」と認めつつも、トルコ及びトルコと地理的に近接する国を除いた地域に渡航したとしても、トルコと日本の「信頼関係が損なわれる蓋然性はない」と判断。
「紛争地域への原告の渡航を我が国が許したとしても、原告が再度テロ組織等から身体拘束を受け、テロ組織等と対峙する諸外国への対応手段に利用される可能性が高いということはできない。
また、紛争地域への原告の渡航を我が国が許すことが、仮に、原告が再度テロ組織等から身体拘束を受け、テロ組織等と対峙する諸外国への対応手段に利用されることにつながり得るものであったとしても、そのことをもって、トルコと我が国との二国間の信頼関係を損なうものになるとはいい難い」(判決要旨より)
それにもかかわらず、トルコ及びトルコに地理的に近接する国を除いた地域への渡航を制約するかたちでされた発給拒否の処分は「外務大臣が裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用してしたものと言わざるを得ず、違法である」として、取り消しを命じた。
一方で、すべての地域を渡航先として記載した旅券発給や、トルコ以外のすべての地域を渡航先として記載した限定旅券の発給まで命じることはできず、国家賠償法に基づく損害賠償請求権も時効で消滅しているとした。