羽田空港の滑走路で、日本航空の旅客機と海上保安庁の航空機が衝突して炎上する事故が起きて、海保機に乗っていた6人のうち5人が亡くなった。一方で、日航機の乗客・乗員は全員脱出できたが、貨物室に手荷物として預けられたペット2匹が犠牲になったという。ネット上では「ペットを客室に入れるべき」といった声があがり、一部で論争も発生しているようだ。はたして、今回の事故を教訓として、どのような対策を考えるべきか。ペット法学にくわしい渋谷寛弁護士に聞いた。
●「命あるもの」として、特別の配慮がされるべき
貨物室に預けられていたペット2匹を救出できなかったことは、「動物福祉」の観点からも避けたい結末であると思います。おそらく緊急時において、人命救出が優先されて、荷物までに手が回らなかったのでしょう。しかし、機内に残された動物が犠牲となるという結果は、避けられる可能性があったはずです。
たしかに法律上、犬猫などの動物であるペットは、権利の客体としての「物」として扱われるのが原則となっています。しかし、犬猫などの動物は単なる物質としての「物」ではなく「命あるもの」です。「命あるもの」という表現は、動物愛護管理法第2条の基本原則の中にも表されており、法律上、新たに認められた概念です。
この法律の表現の変化に見られるように、特に飼い主にとって、家族同然のペットの扱いは、単なる「物」とは違う扱いが法律上され始めて、もはや動物は単なる「物」と同視できない時期に来ています。
航空会社が動物を預かる際にも、単なる「物」とは異なり、「命あるもの」として、特別の配慮がされるべきでしょう。緊急時に救出し難い貨物室に預かることの是非、避難時の動物の命の救済方法などが、今回の事故を契機に検討されてよいはずです。
●客室のペットも一緒に脱出できるよう検討すべき
航空会社の中には、犬猫などのペットを貨物室ではなく、人と同じように乗客室に乗せることができる制度が始まっているところがあります。ただし、乗客室に入れるには、決められた大きさのケージに入れるなど、さまざまな制約が付随しています。
たとえば、緊急時に、動物には酸素サービスが使用できないという規約もあるようです。犬猫であっても呼吸するために酸素が必要であることに変わりはありません。煙が充満したりする場合に、酸素を与えることが可能であるにも関わらず、動物だから使用できないのだとしたら、動物愛護管理法に定める動物虐待罪に該当する可能性も否定できません。犬猫専用の延長チューブを用意するなどの工夫があってもよいでしょう。
また避難時の脱出の際には、手荷物同様の扱いでペットの持ち出しができないとしている規約があるようです。この規約がある以上、客室内にペットを連れ込むことはできても、避難時には最愛のペットを見捨て逃げざるをえないことになります。自力では逃げられない幼児を大人が抱きかかえて一緒に逃げることは可能なはずです。犬猫の場合も、抱っこ紐のような用具を使用して飼い主が抱きかかえ、他の人に迷惑かけることがないように配慮しつつ、一緒に逃げる可能性を検討することはできると思います。
●動物の命を守れないのなら「預かること」に問題がある
動物愛護管理法第7条では、「動物の所有者は(中略)できる限り、当該動物がその命を終えるまで適切に飼養することに努めなければならない」と定めて飼い主の終生飼養を努力義務としています。
また、環境省が定めた「家庭動物等の飼養及び保管に関する基準」の第3共通基準の9の緊急時対策においては、「所有者等は(中略)非常災害が発生したときは、速やかに家庭動物等を保護し(中略)避難する場合には、できるだけ同行避難(中略)に努めること」と定めて緊急避難時の同行避難を努力義務としています。
これらの法令を踏まえれば、飼い主には、災害などの緊急時においては、同行避難をし、飼育している動物の命を守るという努力義務が課されているといえます。
飼い主としては、緊急時に手荷物扱いで同行避難できず見捨てざるをえない、犬猫の命を最後まで守ろうとする姿勢のない内容の規約を定める航空会社と契約締結することの是非を再検討する必要があるのではないでしょうか
航空会社としては、緊急時にも同行避難の可能性を検討しなおし、できるだけ動物の命を確保する方法を考えるべきでしょう。動物の命を預かっているにもかかわらず、緊急時にその動物の命を見殺しにせざるをえない体制は、動物福祉の観点からは望ましいこととは思えません。緊急時に預かっている動物の命を守ることができない、守るためのマニュアルすら用意していないのであれば、そもそも預かること自体に問題があるとも思えます。
動物愛護管理法に「命あるもの」と定められたことからしても、動物が荷物と同様にしか扱われない現状を見直す時期が来ていると思います。