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なぜ東海テレビは「容疑者の顔写真」間違えた? 熟練プロデューサーが指摘する「ガン首探し」の問題点
東海テレビの公式X(https://twitter.com/tokaitv)

なぜ東海テレビは「容疑者の顔写真」間違えた? 熟練プロデューサーが指摘する「ガン首探し」の問題点

フジテレビ系列の東海テレビ(名古屋市)が、とんでもない間違いをして謝罪した。マンションで見つかった男性の死体遺棄事件で、逮捕された女性の顔写真として、まったく関係のない別人の写真を2日間にわたり、ニュース番組で放送してしまったのだ。女性本人から指摘されて気付いたという。

ひとたび誤報が出回れば、容疑者扱いされた当事者には取り返しのつかない深刻な被害をもたらす。報道機関でなぜ人権侵害にあたるようなミスが起きるのか、不思議に思う視聴者もいるはずだ。

しかし、実は、昔も今もテレビニュース関係者が「やりがちな誤報」の1つなのだ。今回は「容疑者の写真を間違えがちな理由」について紹介しよう。(テレビプロデューサー・鎮目博道)

●テレビが顔写真を入手する手段

記者、ディレクター、プロデューサーとしてテレビニュースに携わった筆者にとって、「顔写真を別人と間違えること」は不思議ではない。

筆者自身がミスをしたことはないが、間違えそうになってギリギリで放送をストップしたような、いわゆる「ヒヤリハット」の経験はある。

「間違いが起きる理由」を紐解くため、まずは「テレビニュースの取材班がどのようにして容疑者の顔写真を入手するのか」について、一般的なケースを説明しよう。

容疑者の(顔)写真や動画のことを「雁首(ガンクビ)」と呼び、それを探すことを「雁首探し」という。

事件が起きればマスコミは雁首探しに動く。これはテレビに限ったことではない。

ただし、「映像の強さ」で勝負するテレビニュースでは、「雁首の有無」が各局横並びでの競争の決め手になるため、他のメディアよりも「雁首探し」に気合いを入れがちだ。

事件が起きた地域を管轄する放送局では、新人記者まで総動員して聞き込みと同時に「雁首」を探すし、東京から来たワイドショーやニュースの関係者まで加わって、いわば一斉に番組間競争のような形にもなる。

大きく分けて「雁首」の探し方には3つある。

容疑者の居住地や勤務先などのある地域を片っ端から探す「(1)関係先まわり」。

容疑者の学校の同級生や会社の同僚などにしらみ潰しで聞いていく「(2)知人まわり」。

そして最近多くなってきているのが、容疑者の発信するSNSなどのメディアから探していく「(3)ネットまわり」。

取材では「雁首」だけがあればいいというものではなく、「人となり」「評判」「トラブルを聞いたことがないか」などの情報を探して聞き込み取材やインタビュー取材が必要となってくる。

必然的に(1)関係先や(2)知人にできるだけコンタクトをとることになるわけで、もし未入手であれば「ところで写真を持っていませんか」と必ず聞くことになるわけだ。

●顔写真を持っている可能性が高いのは「関係者」かというと…

個人的な経験から言うと、たとえば隣の住人など(1)関係先の人は、つかまえやすいし、最近の様子をよく知っている。重要な取材先ではあるが、まずもって「雁首」を持っていることはない。

(2)知人はと言うと、昔からの容疑者の人となりはよく知っているのだが、放送するうえで「都合のいい写真」を持っているかといえば、実はあまり持っていない。

とりわけ学校の同級生などが写真を持っていても、だいたいが卒業アルバムか昔の集合写真だ。

卒業アルバムはワンショットの証明写真のような写真に、はっきり下に名前が書いてあることが多く、人違いが起きることはほぼない。

しかし、古すぎることもあるので、テレビマンは卒業アルバムの写真をあまり使いたがらない。他にないときだけ止むを得ず使うようなものだ。

だからといって、旅行や飲み会の「集合写真」だと、写りが小さかったり、顔が正面を向いていなかったり、真顔ではなく笑ったりしているため、どれが誰なのかハッキリしないことも少なくない。

この「集合写真」がかなりの曲者だ。写真を提供してくれた本人ですら「たぶんコレじゃないかなあ」と指差しながら、平気で別の人物と間違えたりするケースがままある。

同じことは(3)ネットの写真にも言える。本人のSNSを見つけて、そこにプロフィール写真などがあれば、「卒業アルバム」と同程度にほぼ本人で間違いない。

しかし、他人のSNSの写真に「グループで写っているうちの一人」だったり、サイト上から拾ってきたような写真は、前述の「集合写真」と同じように提供者本人も間違える可能性が残る。

さて、このような経緯で入手した「たぶんコレだと思うんだけど」という不確かな顔写真を使った結果、あとになって「別人と判明」するようなケースがこれまでにもあった。誤報を出してきたテレビ各社では、対策としてある"ルール"を作った。

●誤報で痛い目を見たテレビ業界がつくった慣行「裏どり3本」とは…

それが「裏どり3本」だ。入手した容疑者や被害者などの顔写真について「必ず3人以上の関係者に確認を取る」というものだ。

1人の関係者だと「勘違い」の恐れがあるから、3人聞いて3人とも「そうだ」と言ったものだけを放送しようというルールで、きちんと各社を確認したわけではないが、現在ほぼこれがテレビ業界の標準となっているはずである。

ところが、この「裏どり3本」にも欠点がある。

欠点の1つは「確認する写真の解像度」の問題だ。古い貴重な写真や卒業アルバムなど、普通はマスコミに貸してくれない。そうすると、テレビのニュース番組では「雁首写真」をその場でビデオカメラで接写することになる。

そのついでにスマホで撮るなどした写真が「3本の裏どり」に使われる。配られた写真をもとに、記者たちは裏どりに走る。

だが、裏どりの相手に見せるのは、再撮した画質の悪い写真だ。日中だけでなく、夜間の暗い場所でもスマホの小さな画面で見ることになる。

それをチラッと見て「うーん、そうじゃないかな」くらいのことで確認をしたのが「裏どり1本」としてカウントされてしまうこともあるわけだから、あまり当てにならない。

そして、もう1つの大きな欠点。「たぶんコレじゃないかなあ」という3人を集めたとしても、それが大間違いだったというケースは十分にあって、特に集合写真はその傾向がありそうだ。

放送まで時間が限られているなかで、本来の意味で求められる慎重な「裏どり3本」ができるかというと疑問だ。

●ヨーイドンで顔写真集めに奔走するマスコミが「ブレーキ」をかけられるか

こうした事態はどう防ぐべきなのか。悩ましい部分は多いが、私としては少なくとも以下の2点を提言したい。

・3年以上昔の写真は原則使わないこと。別人と間違える可能性が高く、そもそもそんなに昔の写真を放送することにどんな意味があるのかよくわからない。

・「集合写真」の使用をできるだけ避けること。もし使うならば、裏どりの相手の中に確実にその人物が「間違いなく容疑者である」と断言できる人物を必ず含めること。その写真を撮った状況を説明できる人物などが好ましい。

最後にもう1つ、立ち止まって考えてほしいことがある。

背景として、とにかく今のテレビニュースは、容疑者や被害者の顔写真に過剰に依存しすぎだ。よほど確実に「本人である」と断言できるもの以外、写真を使わないようにしたほうが良いと思う。

さらに言えば、人権侵害をできるだけ少なくする観点からすれば、「たとえ本人であると断定できたとしても無意味な顔写真は放送しない」方向に行くのが本来、望ましいのではないだろうか。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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