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資金難の国立科学博物館、クラファン8億円超…元文化庁長官「予算少ないのは経済優先のせい」
国立科学博物館(t.sakai / PIXTA)

資金難の国立科学博物館、クラファン8億円超…元文化庁長官「予算少ないのは経済優先のせい」

独立行政法人国立科学博物館(以下、科博)は、コロナ禍に伴う入館料収入の減少や光熱費の高騰などで活動の継続が困難になるとして、2023年8月からクラウドファンディング(CF)をおこなっている。

11月4日時点で、目標金額1億円を優に超える約8億6000万円が集まっており、このままいけば大成功のCF事例となりそうだ。一方で、「国立」の名がつく施設でありながらCFをしなければ運営が立ち行かない状況に疑問を覚えた人もいるのではないだろうか。

政府が文化芸術分野に割り当てる予算は優遇されているとは言い難い。2023年度の一般会計予算は過去最大の114兆3812億円で、文部科学省所管の一般会計予算は5兆2941億円だったが、そのうち文化芸術に関わる文化庁の予算は1077億円で、文科省予算のわずか2%ほどだった。

この割合は諸外国と比較しても低い。文化庁の資料によると、調査対象6カ国(日本、イギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、韓国)の文化支出額(2020年度)は、6カ国で最も少なく、政府予算に占める割合や国民1人あたりの額もアメリカに次いで低かった。

なぜ日本の予算はこれほどまでに少ないのか。2013年から2016年まで文化庁長官を務め、東京大学名誉教授で多摩美術大学理事長の青柳正規氏に話を聞いた。(ライター・望月悠木)

●「維持管理費用が足りません」に驚き

青柳正規氏(提供:多摩美術大学) 青柳正規氏(提供:多摩美術大学)

青柳氏は、科博のCF自体は「決して珍しくない」という。

「科博では2010年代後半に、『琉球列島にどのようにして人類が進出できたのか』ということを調査する“3万年前の航海徹底再現プロジェクト”というものが進められていました。

その際、活動費を募るためにCFを利用しました。科博が市民からお金を集めることは決して珍しくありません」

一方、今回のCFには「驚いた」と話す。着目したのは「CFの理由」だ。

「光熱費などの上昇によって運営が継続できないという理由には大変驚きました。

科博は国立といっても独立行政法人ですので、『すべての費用を国が賄う』というよりは『最低限の費用は賄うべき』という認識が強いです。

科博としても営業努力は必要ですが、光熱費など施設を維持するための大前提の費用さえないのであれば、政府にはもう少し予算を割いてほしくもあります」

●低調な予算割り当ては「経済発展を優先してきた影響」

政府が文化芸術分野に割り当てる予算が十分でないことが今回のCF要因になっている。

青柳氏は「予算を経済発展に割いてきた影響」を指摘する。

「経済成長で浮かれていた1980年代頃に、『私たちが生きていくために必要なのは経済だけではない。地域の文化や芸術も大変重要になる』ということを意識できていれば良かったのですが、経済繁栄ばかりが優先されました。

そもそも『経済が盛り上がれば良い』という意識は昔から根強い。日本は1868年の明治維新で、欧米諸国よりも50~60年ほど遅れて近代化を進めようとしました。欧米諸国に急いで追いつくため、『安価かつ効率的かどうか』が重視されてきたことも、芸術文化分野に対する関心の低さにつながっています」

青柳氏は、文化予算の主な使われ方が「“神社仏閣の保存修復”が中心」という点についても疑義を呈する。

「文化庁の前身である文化財保護委員会の時代から、『神社仏閣などの建物、また文化財を保存修復して後世に伝えていく』ということが重視されてきました。これが今に至るまで主目的となっているため、他の文化芸術分野にお金が回っていない現状があります」

その神社仏閣の保存修復さえも、「神社仏閣の建築物は150年に1回解体修理が必要ですが、平均すると200年に1回のサイクルでしか実施されていません」という。日本の文化芸術を次世代に繋ぐ動きは十分とは言い難いのが現状のようだ。

●災害大国なので「自然科学の重要度は諸外国よりも本来高いはず」

科博は今後どう運営していくべきなのか。

青柳氏は「光熱費が払えないほど経済的に苦しいなら、政府は適切な予算をつけなければいけません」と政府側の問題を指摘しつつ、「科博側がやるべきことというのも当然存在します」と話す。

「まず予算を割いてもらうためには、いかに科博が必要な施設であるのかを示す必要があります。そのためには来館者を増やさなければいけません。

企画展をやるにしても、主なターゲットはどこなのか。小学生なのか高齢者なのかによってその内容も大きく変わります。科博としては『どうすれば足を運んでもらえるのか』ということを、今まで以上に意識しなければいけません。

一方で、科博は自然科学に関する調査や研究などを発信する場でなければならない。ただ単に人気集めをするのではなく、いかに自然科学について学ぶことが大切なのかをアピールすることを忘れてはいけません」

科博の目的は、法律(独立行政法人国立科学博物館法)で次のように明確に定められている。

「博物館を設置して、自然史に関する科学その他の自然科学及びその応用に関する調査及び研究並びにこれらに関する資料の収集、保管(育成を含む)及び公衆への供覧等を行うことにより、自然科学及び社会教育の振興を図ること」(3条)

1877年創立の歴史ある科博は、「自然史・科学技術史に関する国立の唯一の総合科学博物館」を掲げている。

「日本は災害大国と言われており、自然科学という学問の重要度は諸外国よりも本来は高くなければいけない。自然科学に興味を持ってもらい、重要視してもらうための役割を科博が担っていってほしいです」

【筆者プロフィール】望月悠木:主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている。X:@mochizukiyuuki

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