世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と政治の関係を10年以上追及しているジャーナリスト鈴木エイト氏が9月23日、東京都練馬区の武蔵大学で講演した。公開講座「現代ニッポンの大問題」の2回目の講師として登壇。「カルトの政界工作〜メディアの責任を問う〜」と題して、勧誘阻止活動から始まったカルトとの闘いについて振り返った。
この講演をめぐっては、旧統一教会のアドバイザーとして活動する中山達樹弁護士が8月16日、自身のブログで中止を強く要請。関連団体「全国拉致監禁・強制改宗被害者の会」も9月3日、中止を求める申し入れ書を学長宛てに送ったことを明らかにしていた。
講座のコーディネーターを務める東郷賢教授は、抗議のメールが数件来たと説明。「大学が屈することはありません」と話し、大学としても警備強化などはせず、毅然と対応することで一致したという。
●「疑惑はまだある。ピースを埋める作業」
エイト氏は2023年の日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞を受賞。「野良系」と自称し、勧誘の現場や、政治家の演説など実際に当事者に接触するスタイルで取材してきた。大手メディアに掲載されない時代を経て、近年はこれまでの取材成果をまとめた著書を多数出版している。
約270人が集まった教室は、ほぼ満員状態。ユーモアも交えつつ話すエイト氏の話術に、しばしば笑いも起きていた。「できる人ができることをやるというスタンスです。深刻な問題を深刻にやっても読まれない。時にはユーモラスに。どう伝えるのかを考えています」
安倍元首相を銃撃した山上徹也被告人が、事件前にエイト氏に連絡していたことも紹介し、「僕の記事の確度が問われるということです。責任を『感じる』んじゃなくて、責任の『取り方』を考えたら、裁判に向き合っていくことだと思います」と述べた。
エイト氏にとって、取材活動は「疑惑解明のピースを埋める作業」だという。「今でもまだ、いくつもの謎が残っており、声を上げられない人がいる」と説明し、沈黙してきたメディアの矜持がこれから問われるときだと強調した。
●身の危険を心配する聴講者も
統一教会側は、文化庁による解散命令請求の方針が見え始めた今年夏ごろから、再び発信を強化している。拉致監禁され、無理やり脱会させられたと訴える後藤徹氏の「被害者の会」など関連団体がシンポジウムを開催。9月8日には福本修也弁護士、岡村信男法務局長が記者会見を行った。このほか、中山弁護士も大手メディアを招いたレクを行っている。
発信のなかで、特にエイト氏は多くの抗議を受けている。武蔵大の講演には「反社会的ヘイト活動家を起用すべきではない」「大学という神聖な学びの場において講演させることは、さらなる人権侵害を助長する可能性がある」などと中止要請がされていた。
こうした動きについてエイト氏は「教会にとって都合の悪いことを言う人を標的にするネガティブキャンペーンだ」と批判。元2世信者の小川さゆりさんが嘘をついているなどと岡村局長が発言したことを問題視しており、「被害者をどう守っていくかが大事です。現役信者や2世も、また被害者です」と話した。
質疑応答では、エイト氏の身の危険を心配する聴講者も。エイト氏は「気にかけていただいて、ありがとうございます。尾行されたこともあるけど、下手なんですよね。いたって気楽にやっています。政治家取材は少し不安なので、駅のホームでは前に立たないようにするなど気をつけてはいます」と応じていた。