おぼれたダイビング客に対して、ツアーガイドはどこまで責任を負うべきか――。そんな争点の裁判で札幌地裁は5月、業務上過失傷害の罪に問われた元ガイドの女性に「無罪」の判決を言い渡した。
この女性は沖縄県でガイドをしていた2009年4月、客がおぼれたのに気づかず、低酸素脳症などの傷害を負わせたとして、那覇地検に起訴された。ところが、札幌地裁の田尻克已裁判長は、「近くにいたとしても、客の異常に気づけたとは言えず、仮に対処したとしても客がおぼれた可能性は残る」と指摘し、無罪判決を言い渡した。
今回の判決について、弁護士はどのように捉えているのだろうか。海でのスポーツにまつわる法律問題に詳しい林朋寛弁護士に聞いた。
●ポイントは「ガイドに過失があったかどうか」
「裁判のポイントは、ガイドの女性が業務上必要な注意義務を怠ったかどうか。言い換えると『ガイドに過失があったかどうか』です。裁判所は今回、ガイドは過失が認められないとして、無罪としたということですね」
林弁護士はこのように説明する。ガイドには、どんな「注意義務」があったのだろうか?
「札幌地裁は、『(被告人には)海中で客と3~4メートルの距離を保ち、排気の泡の状態や泳ぎ方、マスク越しにうかがえる表情を確認する以上の注意義務はなかった』という判断を示したと、報じられています」
今回の女性ガイドは、そういった注意義務を果たしていたと判断されたわけだ。
●ガイドには「重い注意義務」がある
今回の判決を踏まえて、「ツアー参加客の自己責任」については、どう考えるべきだろうか?
「一部の報道では、ダイビングは参加者の自己責任であるという判断がされたかのようなことが言われています。しかし、これは見当違いの指摘です。
そもそもダイビングは、参加者の生命や身体に重大な結果が生じる危険性のあるものです。ガイド、インストラクターやダイビングのサービスを提供する業者には、生命の危険を回避するために、相応の『重い注意義務』があります。
ですから、客の『自己責任』のマジックワードで、ガイドや業者等が免責されるわけではありません」
ガイドの注意義務は重いが、今回についてはその注意義務を果たしていたと判断された事例だったわけだ。ガイドの責任のあり方は、それぞれのケースで変わってくるのだろうか?
「そうですね。ガイドにどんな注意義務が必要だったかは、事案によっても異なります。参加者の安全を確保して事業を運営していくために、ガイド等にどんな注意義務が課されるのか、裁判例の積み重ねから検討していかなければなりません。本件の無罪判決は、その検討にも役立つと思います」