結婚式でゲストからもらう「ご祝儀」を式の費用に充てる人は多いでしょう。そんな「ご祝儀」を親族に持ち去られたという相談が、弁護士ドットコムに寄せられました。
相談者の女性は数年前に結婚して、式もあげました。しかし、遠方に住む義父が、式後に勝手にご祝儀を持ち去っていたのです。
式の費用はすべて女性が負担していました。義父から具体的な説明や返金をしてもらえるよう夫に説得をお願いしていたものの、夫は数年間一切義父に話もせず放置していました。
「ご祝儀持ち去り」の話を出すと、夫は機嫌が悪くなり、しだいに夫婦関係は冷めきっていきました。最近は義父からお金をせびる電話もあるそうです。
今回のケースと状況は違えど、親族から「金庫を持ち逃げされた」「通帳から20万円を不正に引き出されていた」などの相談が、弁護士ドットコムに複数寄せられています。
親族からお金を盗られた場合、どうにかしてお金を返してもらう術はあるのでしょうか。吉田要介弁護士に聞きました。
●勝手にご祝儀を持ち去ることは不法行為
——ご祝儀を持ち去って返さない義父の行為は違法になりますか?
義父にご祝儀を受け取る権限がない以上、勝手にご祝儀を持ち去ることは不法行為といえます。そのため、民事上、不法行為に基づく損害賠償(民法709条)を請求することが考えられます。
ただ、不法行為に基づく損害賠償請求権は、損害および加害者を知ったときから3年で時効をむかえます。今回のケースで、もし3年を経過していた場合、義父に時効を主張されると請求が認められないでしょう。
——では、対応しようがないのでしょうか?
義父が勝手にご祝儀を持ち去ることは、法律上正当な理由がないにもかかわらず、他人の財産によって利益を受け、それが理由で他人に損失を与えたといえるので、不当利得に基づく返還(703条)を請求することが考えられます。
不当利得に基づく返還請求の時効は、2020年4月1日に民法が改正されて5年になりましたが、改正前の時効は10年です。
●親族間でも犯罪になる?
——刑事事件にはならないのでしょうか?
勝手にご祝儀を持ち去ることは、刑事上窃盗罪(刑法235条)になります。
ただ、窃盗罪には親族相盗例(刑法244条)があります。配偶者、直系血族または同居の親族が犯した場合は、その罪を免除し、それ以外の親族が犯した場合は、親告罪となり、告訴が必要になる規定です。
今回のケースの場合、夫が窃盗の被害者であれば、義父とは直系の血族なので、親族相盗例が適用されて、その罪は免除されます。実際は、免除ではなく、捜査がおこなわれた上で不起訴となるケースが多いです。
——女性も窃盗の被害者と言えますか?
ご祝儀が夫婦に対する贈与と考えると夫も被害者と考えることもできますが、ご祝儀は式の費用に充当されることが多いこと、式の費用を負担したの相談者のみであることを考慮すると、被害者は相談者のみと考えることもできます。
その場合は、義父はその他の親族になるので、相談者が告訴をすれば、義父に窃盗罪が成立する可能性があるでしょう。