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新橋ビル爆発事故「ガス臭いけど"たばこ"吸おうとした」刑事責任どうなる?
爆発の現場(2023年7月6日/弁護士ドットコム撮影)

新橋ビル爆発事故「ガス臭いけど"たばこ"吸おうとした」刑事責任どうなる?

東京・新橋の雑居ビル2階に入る飲食店で爆発が起きて、店長など4人が重軽傷を負った事故。白昼の繁華街で発生したこともあり、窓ガラスなどが散乱する現場映像は世の中に衝撃を与えた。

報道によると、飲食店の店長は「ガス臭い」と思いながらも、店内の喫煙室で「たばこを吸おうとライターに火をつけた瞬間に爆発した」と話しているという。一方で、この店はガスの契約はしていなかったそうだ。

また、同じビル3階では、ガス管の接続部分の一部がずれて、ガスが漏れる状態になっていたこともわかったという。事故当日、3階では内装工事がおこなわれていて、作業員が「ガス管に触れた」と話しているそうだ。

事故の詳しい原因は、これから明らかになると思われるが、ネット上では、ガス臭いのにたばこを吸うことに批判的な意見や、「(店長は)かわいそう」という声もある。今回のような事故が発生した場合、どんな刑事責任を問われるのだろうか。元東京地検検事の西山晴基弁護士に聞いた。

●ガス爆発事故の責任はどうなる?

もしもあえて、(1)ガスを漏出させて「人を死傷」させた場合にはガス漏出致死傷罪(刑法118条2項)、(2)密閉した室内に充満させたガスにライターなどで点火して破裂させて「物を損壊」した場合には激発物破裂罪(同117条1項)に問われます。

また、不注意によって(3)事故を起こして「人を死傷」させた場合(209条~211条)や、(4)前記(2)のように「物を損壊」した場合(117条2項、117条の2)にも、過失の罪に問われます。

今回の事故については、これまでの報道によると、(1)(2)の罪まで問われることはなさそうですが、(3)(4)の不注意による刑事責任は問われる可能性があります。

たとえば、業務上過失致傷罪であれば、5年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金、業務上失火等罪であれば、3年以下の禁錮または150万円以下の罰金に処せられる可能性があります。

●事故の危険性を予見できる立場にある人が責任を負う

一般的に、不注意による事故の責任は、その危険性を伴う行為や業務をおこなう立場にある人が負います。なぜなら、そのような人は、その行為や業務自体に危険性が伴う以上、必要に応じて注意を払い、その危険を予見して回避する注意義務を負うべきだからです。

典型例としては、自動車の運転手です。自動車を運転する行為は、それ自体に人の死傷を伴う事故を引き起こす危険性があるため、その危険を予見して回避する注意義務があるわけです。

ガス爆発事故については、ガス管の工事業者などはこうした注意義務を当然負うことになるでしょう。その業務自体に、ガス漏出による事故の危険性があるためです。

一方で、こうした責任は、事故の危険性をあらかじめ予見できる立場にある人だからこそ負うものであり、その危惧感や不安感を抱くにとどまる人にまで負わせることはできません。

●店長は責任を問われる?

報道によると、爆発のあったビル2階に入る飲食店の店長は「ガス臭いと思いながら、タバコを吸おうとライターに火をつけた瞬間に爆発した」と述べており、ガス漏れの疑いは持っていたということです。

本来、店長は店の管理者として、ガス元栓の管理も含めて店の責任を負う立場にありますから、一般的には、店での事故の責任も負う可能性があります。

しかし、今回のポイントは、店がガス契約をしておらず、ガスを使用していなかったという点です。ガスを使用していないとなると、店長としては、自分の店においてガス漏れが起きること自体想定し難いので、ガス臭さを感じたとしても、「ガス爆発事故が起きるまでの危険性(爆発限界濃度に達する程度のガス漏れ)」を予見することは困難でしょう。

せいぜい、その危惧感ないし不安感を抱いたにとどまると思われます。そのため、店長については、他にガス漏れの原因などを把握できた事情があれば別ですが、そうでなければ、少なくとも業務上過失致傷の罪に問われる可能性は低いと思います。

●ガス爆発のメカニズム解明がすすめられる

では、他に誰も責任を負わないのかというと、かならずしも、そういうわけではないと思います。

報道によると、ガス爆発の原因として、別のフロア(3階)の内装工事の際にガス管がずれていた疑いや、地下のガス管などの劣化の疑いが指摘されています。

そのため、こうした内装工事をおこなった施工業者やガス管などの整備業者に不注意があった場合には、その責任を問われる可能性があります。

こうした業者がすでにガスの漏出を把握しておきながら、何ら対応をしていなかった場合はもとより、確認点検ミスによりガス漏れを把握していなかった場合にも、その責任を問われる可能性があります。

また、他のフロアの利用者(入居者)についても、ガス漏れの原因を把握していたにもかかわらず、前記店長らに、その注意喚起等をしていなかったのであれば、責任を問われる可能性があります。

とはいえ、今回の事故では、そもそも現場以外のガス漏れが原因で、ガス爆発事故が起きるまでの危険性が生じるのかについても疑問があります。

そのため、今後の捜査では、実験・鑑定などで、そもそもどのようなメカニズムでガス爆発が起きたかのかについて解明が進められるでしょう。

それとともに、3階の内装工事においてガス管への接触を伴う工事があったのか、その工事が適切だったのか、その工事に照らして工事後に必要なガス管の点検が適切になされたのか、地下のガス管等の劣化状況に関して保守点検が適切な頻度・対応でおこなわれていたのか、他のフロアの利用者がガス漏れの原因を把握していた可能性があるのか、ガス検知器が適切に設置され稼働していたのかなど、さまざまな点が捜査対象になってくると思われます。

プロフィール

西山 晴基
西山 晴基(にしやま はるき)弁護士 レイ法律事務所
東京地検を退官後、レイ法律事務所に入所。検察官として、東京地検・さいたま地検・福岡地検といった大規模検察庁において、殺人・強盗致死・恐喝等の強行犯事件、強制性交等致死、強制わいせつ致傷、児童福祉法違反、公然わいせつ、盗撮、児童買春等の性犯罪事件、詐欺、業務上横領、特別背任等の経済犯罪事件、脱税事件等数多く経験し、捜査機関や刑事裁判官の考え方を熟知。現在は、弁護士として、刑事分野、芸能・エンターテインメント分野の案件を専門に数多くの事件を扱う。

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