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男女格差が激しい弁護士業界、女性の司法試験合格者4割超「早大ロー」の挑戦
写真はイメージです(pearlinheart / PIXTA)

男女格差が激しい弁護士業界、女性の司法試験合格者4割超「早大ロー」の挑戦

政府が男女共同参画を進める中、法曹界で働く女性をいかに増やすかが課題とされてきた。法曹界で多数を占める弁護士4万4906人のうち、女性はたったの8914人で2割に満たない(2023年6月現在)。しかも、日弁連が定期的に実施している調査によると、同じ弁護士であっても収入や労働時間に明確な男女差があるという。

そうした中、早稲田大学大学院法務研究科(早大ロー)では、2015年から「女性法曹輩出促進プロジェクト(Female Lawyers Project)」(通称FLP)を立ち上げ、多くの女性を法曹界に送り出している。2022年の司法試験では、早大ローからの合格者は女性が4割を超えたという。

なぜ女性弁護士が必要なのだろうか。また、なぜ弁護士の男女格差が生まれているのだろうか。法曹界のジェンダー問題にくわしい早稲田大学大学院法務研究科の石田京子教授に聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●なぜ女性弁護士が少ないと困るのか?

そもそも、女性の弁護士が少ないと、どのような弊害があるのだろうか。石田教授はこう指摘する。

「さまざまな調査から、女性は女性弁護士に、男性は男性弁護士に、相談や依頼をしたいと考える傾向がわかっています。

しかし、女性弁護士は相対的に少なく、女性の司法アクセスを制限する一つの要因になっています。また、半分以上の弁護士が東京などの大都市に集中しています。女性弁護士が少ない地方の女性にとってはさらに、司法アクセスが制限されていることになります。

必然的に、女性が直面することの多いDV問題や、労働現場でのハラスメント問題、性被害の問題などが顕在化されにくい状況を作ってしまいます」

女性が法的な問題を抱えてしまった場合、女性弁護士に相談しようと思っても、男性に比べて難しい現状があるという。

画像タイトル 石田教授(2023年4月、弁護士ドットコム撮影)

●弁護士でも深刻な男女間の所得格差

また、弁護士業界の中でも、男性と女性の「格差」が指摘されてきた。収入や事務所内のポジションなどで、顕著な差が調査によって浮き彫りになっている。

日弁連では1980年から10年ごとに、弁護士の経済状況をアンケートによって調べる「経済基盤調査」を実施している。2010年、2020年の調査の分析に関わった石田教授によると、各年代ごとに収入の男女格差があったという。

2010年の経済基盤調査をもとに、石田教授が30代までの回答者を抽出して男女で比較したところ、実務経験も所属事務所の規模も大きな差異はなかったが、平均年収は男性1132万円、女性839万円だった(「自由と正義」2011年臨時増刊号)。

「若い世代の男女間で300万円近い差がありました。その背景には、依頼者が大企業であったり、継続的な依頼が見込まれ、収益性も高い事件は男性弁護士、依頼者が個人で収益性が低い家事事件等は女性弁護士という受任の傾向があり、それが所得の差に影響していました」

さらに、男性弁護士は女性弁護士に比べて労働時間が長いという結果も出ていた。年間の総労働時間は男性の平均が2684.6時間であるのに対し、女性の平均は2371.1時間と女性の方が300時間以上少なかった。

「20代、30代の弁護士は半数以上が結婚を経験していますが、女性弁護士は自身の妊娠出産によって収入が減った、事務所を辞めざるを得なかったといった、弁護士業への否定的な影響を受けた人が圧倒的に多い一方で、男性弁護士は配偶者の妊娠による影響はほとんどありませんでした。こうした出産・育児と仕事との両立が困難な状況が女性弁護士の労働時間が少ない要因の一つだと思われます」

こうした若い世代での取り扱い業務や労働時間の男女格差は、その後のキャリア形成にも大きな影響を与えるという。年代を経るごとに所得の格差は広がり、50代では男性平均2417.0万円、女性平均1292.7万円と最大1124.3万円もの違いがあった。

しかし、2020年の経済基盤調査では、わずかながら変化があった。

「2010年時の調査に比べて、2020年時の調査では20代の所得の男女差はほとんどありませんでした。エントランス部分での格差は解消されつつあります。ただ、やはり妊娠・出産・育児の負担が増える30代以降は、2010年時の調査同様、50代まで男女の差は広がっていきます」

●女性の法律家を育てるためにサポート

しかし、2020年の実施された経済基盤調査によると、「男性も女性も平等に仕事ができること」を弁護士の志望動機として挙げたのは、男性8.9%に対して、女性は73.0%となっており、法律家という仕事に対する、若い女性の期待が高いことがわかる(「自由と正義」2021年臨時増刊号)。

そうした若い女性をサポートし、法曹界のジェンダー不平等を解消しようと進められているのが、早大ローが取り組んでいる「女性法曹輩出促進プロジェクト」(FLP)だ。

FLPは、アカデミックアドバイザーと呼ばれる、早稲田ローの学生の学修支援をする弁護士の声から生まれた企画で、法曹界を目指す女子学生が中長期のビジョンを持てるよう、女性の法律家を招いた講演会や先輩弁護士との交流会の実施、産前産後の女子学生へのサポートなどきめ細やかな支援をおこなっている。

FLPの推進役を担う石田教授は、その目的をこう話す。

「当初の問題意識は、女性の法律家が少ないのはなぜかと考えたとき、男子学生と同じように女子学生は簡単にロールモデルを描けないのではないか、ということがありました。弁護士と聞くと、頭に浮かぶのは男性が多く、女性は少ないです。だから、『男性弁護士』とは言わないけれど、『女性弁護士』という言い方をするわけですね」

FLPでは、女性の法律家を身近に感じてもらうことで、自身のロールモデルを見つけてもらうことが狙いだ。地道な活動が実を結び、昨年は早大ローからの司法試験合格者は4割以上が女子学生だったという。司法試験の女性の合格者が全体で例年3割に満たない中、快挙といっていいだろう。

画像タイトル 2017年に実施された「女性法曹カフェ」(提供写真)

FLPでは今年7月1日にも、千葉大学や琉球大学、中央大学と連携してシンポジウム「ロースクールに行こう!女性法律家はこんなに面白い!」を開催する。早大ロー出身で現在、東京地裁で勤務する女性の裁判官や、連携する法科大学院出身の弁護士や司法修習生を招いて、その仕事ややりがい、夢を語ってもらう。

「一つの大学で取り組んでいるだけでは焼け石に水なのですが、『優秀な女性の法律家を育てていきます』『こういう取り組みをして女性の法科大学院生、司法試験合格者が増えていきました』という発信は続けていかなければと思っています。そうすることで、全国の大学でも同じような取り組みが広がってくれればと願っています」(石田教授)

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