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法令違反の「宝探し」か「歴史的発見」か YouTuberと小学生の明暗を分けたポイント
小学生が発見した渥美産四耳壺の出土状況(津市教育委員会提供)

法令違反の「宝探し」か「歴史的発見」か YouTuberと小学生の明暗を分けたポイント

近年、野外で金属探知機などを使った「宝探し」や「トレジャーハント」の動画を公開しているYouTuberが人気を集めている。

YouTuberが山や河川で古銭などを発見し、「お宝が出た」と喜んでいる動画だ。しかし、こうした動画の中には、城跡や寺院跡、防空壕など歴史的な場所を掘削しているものもあり、文化財保護法などの法令違反が疑われるケースがある。

今年5月、ある男性2人組のYouTuberが、埼玉県秩父市にある中世の城跡を訪れ、金属探知機に反応した場所を次々とスコップで掘り返して「お宝」を探す動画が問題となった。

埼玉県文化資源課が5月15日、ツイッターで注意を呼びかけたことを受け、YouTuberたちは謝罪して、今後は掘削をおこなわないと公表した。

一方、同じ日、三重県津市の山中で遊んでいた子どもたちが偶然、貴重な中世の墓を見つけ、「歴史的大発見」と報じられて注目を集めた。

歴史的な場所を掘り返して違法性が指摘されたYouTuberと、山中で歴史的大発見をした子どもたち。明暗を分けた「宝探し」はどこまでが合法で、どこからが違法なのだろうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●YouTuber「法律を守って活動しているつもりだった」

埼玉県文化資源課から文化財保護法違反の可能性が指摘されたのは、熊倉城跡と思われる場所を金属探知機を持って宝探しするという動画だった。動画には、YouTuberが金属探知機の反応があった場所をスコップで掘り返す作業を何回もおこなう様子が映されていた。

動画の視聴者から通報を受けた埼玉県文化資源課は5月15日、次のような注意をツイッターで呼びかけた。

「動画投稿サイト上に『宝探し』などの名目で、文化財として周知されている土地と思しき場所を掘削する動画が見受けられます。文化財保護法や文化財保護条例によって指定等された土地を、法令で定められた手続きを経ずに掘削等を行うと、法令に違反する恐れがあります」

熊倉城跡は、埼玉県が指定した重要遺跡であり、埋蔵文化財の存在が知られている場所(埋蔵文化財包蔵地)でもある。

SNSなどで法令違反の可能性を指摘されたYouTuberは、その直後にツイッターで「私個人の見解では 文化財保護法にて、土木工事などの開発事業の掘削に申請が必要なことを認知していましたがハンドシャベル程度はそこにあたらないと認識していました」と投稿して謝罪した。

その後、YouTuberは動画で「法律を破りたいとか迷惑をかけたいという感覚は一切なく、法律を守って活動しているつもりでした」と語った。また、埼玉県文化資源課から「掘削はしないでほしい」と言われたことを明かし、今後は改めると述べた。

●歴史的大発見につながった子どもたちの「判断」

YouTuberの動画と同じ日に話題を集めたのが、三重県津市の山中で、小学生の兄弟が石をどけたところ、壺や銅鏡を発見したというニュースだった。メディアで大きく報道されるとSNSで絶賛された。

土を掘ってお宝を発見するという流れは、一見同じように見えるが、三重県津市のケースはどう異なっていたのだろうか。

津市教委の担当者は、弁護士ドットコムニュースの取材に対して、「発見された場所は、埋蔵文化財包蔵地の範囲から外れていました。ですので、お子さんたちは遺跡がある場所だという意識はなかったと思います」と説明する。

そもそも子どもたちは、宝探しをしようと思っていたわけではなく、空手を教わっている男性と一緒に山中で遊んでいたという。

発見の状況も異なる。子どもたちは偶然、石積みを見つけた。石をどかすと、下から壺が見つかった。津市教委の担当者によると、同行していた男性の判断もあり、子どもたちはそれ以上掘り返したり、壺を持ち帰ったりしないようにして、埋め戻した。

この判断が、歴史的な発見につながることになる。

●文化財の調査に必要な手続きとは

後日、男性は三重県埋蔵文化財センターの職員に連絡し、中世の墓であると判断した津市教委が発掘調査をおこなうことになった。一旦発見された遺跡を放置しておけば、状態が劣化したり、盗掘や損壊のおそれがあるからだ。

「事前に土地の所有者を調べたところ、地元の自治会の土地であることがわかりました。そこで、自治会のご理解を経て、県の教育委員会に発掘調査の届出をして、学術調査をすることになりました」

埋蔵文化財包蔵地と認められた場所を発掘や土木工事、開発などをおこなうには、文化財保護法で定められた手続きを経る必要がある。

その手続きを経たうえで、津市教委が昨年6月に発掘をおこなったところ、12世紀ごろの墓2基が検出された。墓からは、渥美産の四耳壺や、銅鏡、鉄刀などが出土した。この地方の有力者の墓である可能性があり、今後さらに分析を進めるという。

なお、出土品についても、文化財として扱うには、都道府県や政令指定都市および中核市の教育委員会に認定してもらうという手続きが必要となってくるほか、所管の警察署に「遺失物」として届け出る必要もある。

発掘には文化財保護法にのっとった手続きや、関係機関、土地の所有者との調整など、丁寧な手順が求められるのだ。

●子どもたちの発見「文化財が守られた稀有なケース」

「今回の発見は、不時発見(予想されていなかった埋蔵文化財が発見されること)によって貴重な文化財が散逸することなく守られた稀有なケースです」

津市教委はこの成果について、発表資料の中で高く評価した。一方で、担当者は注意を呼びかける。

「今回発見された遺跡の近くにも、さらに文化財が埋蔵されている可能性があります。無断で掘ったりしないよう、注意を呼びかけています。また、もしも今後、こうした遺物や遺構を発見した場合は、地元の教育委員会にまずはご連絡いただければと思います」

熊倉城跡と思われる場所を掘削したYouTuberだけでなく、宝探しやトレジャーハントといった動画の中には、土地の所有者の許可を得たり、文化財保護法で定められている手続きをおこなっていないのではないかと疑われるものも少なくない。

もしも、自分たちの手法が本当に合法なのか、疑問を感じたら、宝探しをする前に地元の教育委員会などに問い合わせしてみてはどうだろうか。また、不発弾などを発見してしまうことも考えられ、命の危険もともなう。安易な宝探しは自重すべきといえる。

※編集部注:この記事は、埋蔵文化財保護の視点から書かれたものであり、文化財保護法を主眼に置いています。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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