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承認欲求の暴走か… ホームレス女性を「オモチャ」にした迷惑動画で負う責任
愛知県警本部(天空のジュピター / PIXTA)

承認欲求の暴走か… ホームレス女性を「オモチャ」にした迷惑動画で負う責任

路上生活者の女性に嫌がらせする様子を撮影した10代の少女と少年が、名古屋市内のコンビニに入店した建造物侵入の罪で書類送検された。その後、三重などの家裁に移送されたと報じられている。

この女性を撮影した動画は何度もSNSに投稿されていた。報道によると、少女らは「バズらせたかった」などと犯行の動機を供述しているという。

あくまで被害者は「不当な目的で立ち入りをされたコンビニ」となるのだが、「ネットのおもちゃ」にされた女性は被害者の立場にならないのかと疑問が浮かぶ。

少女らは「商品をおごる」と話を持ちかけ、商品を選んでレジに並んだ女性を会計直前になって置き去りにしたとされる。問題の動画には、置いて行かれた女性が「ちょっと待って、行かないで」と動揺する姿が映っていた。

この事件を受けて、ネットには「一生懸命生きてる人をネタにした動画は嫌い 人は玩具じゃないんだよ」などの意見があげられている。

刑事事件にくわしい伊藤諭弁護士は「軽はずみな行動が昔よりも目立ってしまう時代。迷惑動画の問題は重い法的責任を負うだけにとどまらない」と話す。伊藤弁護士に聞いた。

●不当な動画撮影のための入店が同意されることはない

——なぜ「建造物侵入罪」での書類送検となったのでしょうか

誰でも入ることのできるコンビニに入ることがどうして「建造物侵入」になるのかピンとこない方も多いかも知れません。

24時間、誰にでも開放されているコンビニでも、万引き目的など、管理者が、本来の目的を知っていたら店に入ることを承諾しないであろうという場合、建造物侵入罪になりえます。

不当な動画撮影をするために入店することにコンビニ側が承諾することはないでしょう。この件も建造物侵入罪が成立することは仕方のないことかと考えます。この場合、「被害者」はコンビニの管理者です。

——ホームレスの女性は、問題となった動画のほかにも「バズるためのネタ」にされてきたようです。撮影した動画を拡散された行為を問題として、女性自身がそうした法的措置をとれないのでしょうか

女性側の法的措置として考えられる手段を検討します。あくまでも「考えられる」手段であって、それが実際に認められるかどうかはまた別の問題になります。

刑事上の責任としては、名誉毀損罪(刑法230条)あるいは侮辱罪(刑法231条)が考えられます。いたずら動画の公開が、この女性の社会的評価を低下させる可能性があるので、動画の公開自体をもって「事実を摘示した」といえれば名誉毀損罪、そうでなければ侮辱罪にあたることになります。

過去には、わいせつな写真に他人の顔写真を合成したものをガードレールなどに貼り付けた行為を名誉毀損と評価した裁判例もあります。

民事上の責任としては、名誉権や肖像権、プライバシー権の侵害などを理由にした不法行為に基づく損害賠償請求が考えられます。

●昔より真面目な若者が増えただけに、一部の暴走行為が「目立つ」世の中

——回転寿司チェーンでの迷惑動画なども社会問題となっています

迷惑動画に走る動機としては、注目を浴びたい、目立ちたいという承認欲求、再生時間数を稼いで広告収入を稼ぎたいという経済的欲求などがあると考えられます。しかし、迷惑動画による注目は総じてマイナス方向であり、投稿者本人のみならず、家族や学校、職場など、負の波及効果は大きいといわざるを得ません。

また、このような炎上事案によって稼いだ動画では、おそらく広告も停止され、収益なども見込めるはずがありません。

それどころか、今回説明したような法的な責任の発生だけでなく、こうした悪評がデジタルタトゥーとして残り続けるので、立ち直るためのハードルはあまりに大きいといわざるを得ません。

決して、最近の若者が暴走しやすくなったということではありません。むしろ、真面目な若者が増えたと思っています。そんな中で、軽はずみな行為によって発生する損害が大きく、目立つ時代になったということです。

こうした不届きな行為を抑止する必要は当然ありますが、そうした行為に対する第三者の非難が行きすぎることも問題が大きいものです。極端に振れやすい時代においてバランスが求められているといってもいいかもしれません。

プロフィール

伊藤 諭
伊藤 諭(いとう さとし)弁護士 弁護士法人ASK川崎
1976年生。2002年、弁護士登録。神奈川県弁護士会所属。中小企業に関する法律相談、弁護士等の懲戒請求やトラブル対応などを手がける。第一法規「懲戒請求・紛議調停を申し立てられた際の弁護士実務と心得」著者。

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