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風俗客とキャスト「性接触の全国ネットワーク」を可視化 口コミ9万件分析で見えた「世界の狭さ」
キャプション:都市ごとのレビュー規模とレビュアーの移動状況(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0276981)

風俗客とキャスト「性接触の全国ネットワーク」を可視化 口コミ9万件分析で見えた「世界の狭さ」

誰と誰が性的な関係を持ったかという性接触のネットワークはHIVなどの感染症予防のために古くから研究されてきた。一方で、もっとも他人には知られたくないプライバシーに関わる内容ゆえに大々的な調査は不可能とされ、その実態は謎につつまれていた。

しかし2022年11月、静岡大学の守田智教授と長崎大学の伊東啓助教らのグループは、性風俗の口コミサイトに寄せられたレビューをもとに全国規模の「性接触ネットワーク」の構築に成功したと発表した。

その内容はどんなものなのか。守田教授と伊東助教が解説する。

「ネット上で公開されている風俗店のレビューはある人とある人が性的接触をした証拠なわけです。これを使ってネットワークを作れないかと考えました。レビューの中から女性キャストの名前と客のハンドルネームだけを抜き出して、誰と誰がつながっているのかというのを収集しました。

例えばAさんが静岡のお店で働くaさんに対して口コミを書いたとすると、『A-a』という1本の線で繋がります。さらにAさんが東京のお店のbさんに対しても口コミを書いたとすると、『a-A-b』というネットワークができる。このときAさんは静岡から東京に移動しているので、地図上で静岡と東京をつなぐ線になります」(伊東助教)

今回対象に選んだのはとある口コミサイトに投稿されたソープランドに関するレビュー約9万件。とくにソープランドを選んだ理由としては、

「確実に異性間での性接触が行われている場所であり、警察に届け出がされていることから店舗数が把握できるため、口コミのデータが全体のどれだけをカバーしているかがわかります。科学的データとして扱いやすいのがソープランドだったのです」(伊東助教)。

●「出稼ぎ女性」を追いかけ全国へ

図1:ソープランドの国内分布とウェブサイトへの登録比率(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0276981)

図1は届け出のある全国のソープランドの軒数と口コミレビューがそのうちのどれだけの軒数をカバーしているかをあらわした図だ。全1185軒のソープのうち784軒、およそ66%の情報をカバーしていることがわかる。

図2:都市ごとのレビュー規模とレビュアーの移動状況(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0276981)

そして図2は都道府県ごとのレビューの件数とレビューを書いた人の移動状況を示している。線が太いリンクはそれだけ人の往来が多いことを示す。守田智教授は次のように分析する。

「県をまたいでどれだけ移動しているかというのは男性の人流データに近いのかなと思っています。東京、埼玉、神奈川、千葉などは太い線で結ばれており、コロナの対策時もそうでしたが首都圏1都3県はセットで機能しているように思います」

さて、実際に現場を知る風俗ジャーナリストはこの研究結果についてどう感じるのだろうか。風俗誌『俺の旅』シリーズの編集長で全国の風俗店を取材してきた生駒明氏はこう語る。

「図2をみると大きなソープ街がつながっています。交通と通信が発達した結果、人々が移動しやすくなった。私がこの全国地図を見て思ったのは、最近の風俗嬢って地方に出稼ぎに行く人が多いんです。そういう女性キャストを追っかけているお客も多いのかなと。これを見るとまさに出稼ぎの場所に行っていますね。

ソープに着目した守田さんと伊東さんの目の付け所は素晴らしいと思います。軒数はデリヘルのほうが10倍以上多いですけど人気は圧倒的にソープなんです。常連客がつきやすい業種もソープです」

図の上には表れていない〝事情〟についてもこう解説する。

「ソープの数ですが、ソープとして登録していて実際にソープとして営業しているところは960軒ぐらいなんです。ソープの許可でヘルスをやっているところがけっこうある。昔はソープだったけどヘルスやエステにリニューアルした例ですね。どちらかというと図(A)はソープというよりも店舗型風俗の軒数と言ってもいいのかも知れません。

なお、大阪のレビューがないのも、ソープとして登録していたものの、現在ではヘルスなどとして営業しているからだと思います。他にレビュー数ゼロの山口や鳥取にはソープはありますので、口コミサイトがカバーしていないだけなのでしょう」

●利用頻度による嗜好の違い、データで浮き彫りに

図3:個々人のネットワークの描画図。一部拡大した下の図を見ると、女性(赤い点)と男性(青い点)の関係性が見えてくる(https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0276981)

また、個々人のネットワークをそのまま描画したのが図3だ。青い点は男性、赤い点は女性を示している。

中心部は点と線が多すぎてまったく見えなくなっている状態だが、詳細が判別できる外縁のほうでは、花火のように赤い点が他とつながりがない青い点に囲まれていたり、その逆に青い点が赤い点に囲まれているケースがあるのが見てとれる。

これは何を意味するのだろうか。

「人気のある女性キャストにあまりレビューを書いていない男性客が集中しているということです。逆にたくさんレビューを書いている男性はあまりレビューされていない女性キャストのところに行っているという傾向があります」(守田教授)

これについて生駒氏はこう解説する。

「ライトユーザーは失敗をしたくないので確実な人気店を選ぶ傾向があります。HPがしっかりしているとか広告にお金をかけてたくさん宣伝しているようなお店です。

逆にヘビーユーザーは新規開拓にいそしむ傾向があり、穴場を求めて地方にポツンと1軒あるようなお店に行きます。出稼ぎ嬢がいることもあれば素人っぽい女性に当たることもあって、そういう〝当たり〟を引くことがコアなユーザーの楽しみの一つ。ライトユーザーはそういうお店には行かないですね」

●改めて示される「世界の狭さ」

そんな風俗ユーザーの嗜好まであぶりだしてしまうこのネットワークだが、実はここにはさらに深い事実が読み取れるのだという。

「この赤と青の点からランダムに2人を選んだときに、間に何人を介したらつながるのかという平均値を出すと9.87人という数字になります。つまり平均9.87人が間に入れば誰とでもつながってしまうということです。

世間とは意外に狭い〝small world〟なのです。これは疫学的には重要で、例えば北海道と沖縄で空間的には離れていても約10人でたどり着いてしまうということ。コロナでおわかりのとおり世界は狭くなっているということがここからもわかります」(伊東助教)
「世間は狭く一つのかたまりのネットワーク。世界のどこかで起こる出来事は対岸の火事ではないということですね。この研究はソープランドが性感染症の源泉だとするものではないし、実際の調査でもソープランドで性感染症にかかる率は一般よりも低いという結果が出ています。そもそもの目的は性感染症ですが、われわれの性に関するネットワークには大きなネットワークが存在することが確認できたということです」(守田教授)

さらに生駒氏は次のように指摘する。

「性感染症の話でいえば、最近は『NS』、つまりコンドームをつけない『ノースキン』の店が流行っています。もちろんお店は表立って宣伝はしないし、同じ店でもキャストによってOKだったりそうでなかったりするのでデータにすることは困難でしょう。でもそのキャストや客のネットワークがこんなに広がっていると想像するとちょっと怖いですね」

このネットワークは風俗店、しかもソープというごくごく限られた範囲のものだ。守田教授によれば今回調査したサイトのレビューの中でソープに関するものは2割ほどだという。それでもこれだけの大きなネットワークが浮かび上がった事実を考えると、人の営みはもっと見えにくい場所で複雑に、そしてさらに膨大な範囲で張り巡らされているのは想像に難くないのだ。(ライター・谷トモヒコ)

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