聖路加国際病院(東京都中央区)でスピリチュアルケアを担当する男性牧師から性被害にあったとして、患者の女性が、牧師と病院を運営する学校法人聖路加国際大学を相手取り、慰謝料など約1160万円を求めた裁判の判決が12月23日、東京地裁であった。
桃崎剛裁判長は、不法行為を認めた上で病院側の使用者責任も認め、牧師と病院側に対し、連帯して110万円を支払うよう命じた。
聖路加国際病院のHPによると、スピリチュアルケアは「チャプレンが、じっくりと病気や怪我などの心の痛みや苦しみをお聞きして、患者さんとご家族の心・魂の支えとなるよう援助をします」と書かれている。女性は病院で男性牧師(チャプレン)との面談中に、陰部を触らせられるなどの性被害にあった。
判決後、女性と代理人弁護士が会見を開いた。女性は「ようやくスタートラインに立てた。牧師を擁護する立場の方々から虚偽のことを言っていると言われ、被害者と加害者が逆転している状態だった。公正な判決をいただいて、感謝している」と話した。
●「女性が黙示に同意していたとは推認できない」
判決によると、女性は国指定の難病である多発性筋炎の治療のため、聖路加国際大学に通院をする中、病院のチャプレン(施設で働く聖職者)である牧師からスピリチュアルケアを受け始めた。
2017年5月8日、牧師は病院内の一室で女性の手をとり、無理やり自分の陰部を触らせた。女性はその日の夜、知人の弁護士に「牧師に、セクハラで、逃げたい。マッサージとか頼まれ、体力的にも無理」などとメッセージを送信。性暴力救援センター「SARC東京」にも電話相談した。
5月22日にも、牧師は病院内の一室で無理やり自分の陰部を触らせ、女性の胸を触ったり舐めたりした。
女性はその翌日に知人弁護士に相談し、2018年1月に警視庁に被害届を提出した。牧師は2018年9月に強制わいせつ容疑で書類送検されたが、12月に嫌疑不十分で不起訴処分となった。
桃崎裁判長は、女性の供述の信用性が高いと判断した一方、牧師の供述は重要な部分について変遷していると指摘。「陰部を触らせていない」とする牧師の主張を退けた。
また、牧師側は「女性が自らの意思でマッサージをしていた」「性的な身体接触について黙示の同意をしていた」などと主張したが、「女性が黙示に同意していたとは推認できない」とし、不法行為を認定した。
今回の行為は、牧師のチャプレンとしてのスピリチュアル業務中に行われたものであるとして、牧師をチャプレンとして雇用していた法人の使用者責任も認めた。
●「病院が患者の安全を守ってくれることは一切なかった」
女性は「まさか聖路加(国際病院)でそんなことが起こるわけがない」と被害を信じてもらえなかったことを振り返り、「ただ当たり前に医療を安全に受けたかっただけなのに、どうしてこんなことが起こってしまったんだろうとか、なんとか自分でも信じられない時期が続きました。病院が患者の安全を守ってくれることは一切なかった」と話した。
原告代理人の本田正男弁護士は、「当たり前の判決」と評価しつつ、損害賠償の金額について「今の実務からするとごく普通の賠償額であるが、安すぎる。常に被害者側が損する構造がある」と問題視した。
聖路加国際病院は「判決文が届いておりませんので、判決内容を精査して対応したい」とコメントした。