ジャーナリストの鈴木エイト氏が11月26日、全国統一協会被害者家族の会の相談会で講演し、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と関係の深い政治家への追及が止まっていると大手メディアに対して苦言を呈した。「これまで(辞任した山際大臣など)は小物だ」と指摘し、特に選挙協力などを通して教会の体制保護に寄与してきた大物政治家への手を緩めてはならないと呼びかけた。
安倍晋三元首相は亡くなっているから本人に当たれないとはいえ、周辺の調査はできるはずだと強調。「自民党は一切関係を断つといいながら、あの程度の点検で済ませようとしている。調査、報告を出すべきだ」とし「追及されていない政治家は山ほどいる。すがすがしく追っていきたい」と決意を語った。
●安倍氏がUPFに寄せたビデオメッセージに受けた衝撃とは
エイト氏は2002年ごろから、街頭勧誘活動の取材を始めた。その後、約20年間、地方選挙から国政へと、徐々に政治家と旧統一教会の関係に迫っていったが、安倍氏の銃撃事件までは日の目を見なかった。
大手メディアは「自主規制で報じてこなかった。『あの人は今』のようなバラエティー的なものはあったものの『旬ではない』『抗議は面倒だから避ける』などの理由で、一部メディアでしか扱われなかった」と批判した。
事件後の4カ月を振り返ると、まるで内輪ネタが一般的になったようだったという。政治家との関係も取り沙汰されたが、安倍氏、萩生田光一氏、細田博之氏など本筋の政治家への追及はまだ終わっていないと指摘する。菅義偉前首相については、統一教会の北米大陸会長が首相官邸に招待されたと発言したとの情報がある。
エイト氏は、天宙平和連合(UPF)に安倍氏が寄せたビデオメッセージが今年4月に配信された時、「とうとう統一教会との関係が表沙汰になっても政治生命は傷つかないと踏んだのだという衝撃を受けた」という。
インターネット上では4社だけが報じたが、一般紙は取り上げなかった。「安倍氏の『政治生命には関係ない』というのは、ある種、正しかったんでしょう。しかしこれを見た山上徹也容疑者が犯行を決意した一つの原因になったことは押さえておくべきことだと思います」
●10万人の現役信者も被害者、偏見や差別はあってはならない
長年の取材経験からマインドコントロールされた信者について「自分とは違う人たちと捉えがちだが、決してそうではありません。網がかけられたところに、運悪く引っかかってしまった。人格を変えられてしまった。誰しもに起こりうることで、自己責任ではないんです」と話す。
2015年の安保法制反対で学生の大きなうねりとなったSEALDsに対抗する組織として、国際勝共連合が支援する大学生集団「UNITE」があり、若手信者が安倍政権の維持に協力していたと説明。2世問題は山上容疑者のように自身が信仰していない人もいれば、こうした現役信者で政治に利用されている場合もある。
現在、12月10日の国会会期末を控え、救済法案の議論が煮詰まっている。エイト氏は「年内に法案がまとまったからといって、報道や追及が下火になったら元も子もない」という。政治との関係、2世の問題を含めオウム真理教の時のような国による徹底的な調査、報告を求めた。「そこで重要なのは、10万人いるとされる現役信者が追い込まれ、偏見や差別されていくような状況はあってはならないということ。カルト問題は人権問題なんです」