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警察の「巡回連絡カード」には協力したほうがいい?  任意だけど「有事の際の保険」とも
巡回連絡実施要領の改正について(通達) 平成11年11月1日より(イラストはTKM / PIXTA)

警察の「巡回連絡カード」には協力したほうがいい? 任意だけど「有事の際の保険」とも

警察にはありとあらゆる個人情報が…と思うかもしれないが、実は意外と少ない。氏名や生年月日から特定できるのはせいぜい「犯罪経歴」「運転免許証」「交通違反歴」「自転車防犯登録」のデータくらいだろう。

そして有事の際、活用できるのが「巡回連絡」だ。みなさんは書いたことはあるだろうか。そもそもどんな目的で導入されているのかご紹介したい。(元警察官・ライター/鷹橋公宣)

●お巡りさんが地道に収集する「巡回連絡」の情報

警察が所有している個人情報のなかで忘れてはならないのが「巡回連絡」の情報。交番のお巡りさんには、管轄内を細分した「受持区」があり、受持区の個人・企業をおおむね1年以内を目安に巡回し、家族構成や緊急連絡先などを聴き取っている。

聴き取った情報は警察官が「巡回連絡カード」に記載するか、または対象者にカードの記入をお願いする運用だ。

「そんなの、来たことないけど?」という人も多いはず。実際のところ、お巡りさんたちは交通取り締まりやパトロールに時間を割くことが多く、しかもペア行動が基本なので、各員に割り当てられた受持区の巡回にまで手が回らないのが現実。

しかし、巡回連絡では任意とはいえ家族構成だけでなく勤務先や子どもが通っている学校なども詳しく尋ねられるため、しゃべりすぎると思いがけず重要な個人情報を把握されるかもしれない。

●巡回連絡は何のため?

もちろん、巡回連絡は捜査のための活動ではない。

あくまでも防犯上の目的で、個人宅や会社を訪ねて防犯指導をおこなうとともに、わざわざ警察署や交番に相談しにくいことも「ちょっとついでに尋ねたい」という要望に応える機会となる。

ご近所トラブルや家庭内暴力の相談につながったり、近隣のアヤシイ人の情報を伝えてパトロール強化につながることもある。警察官が相手とはいえ個人情報を話すことに抵抗があるかもしれないので、プライバシーに関する事項を無理に答える必要はない。

しかし、たとえば外出中に火事が起きたときに誰が住んでいるのかを素早く把握したうえで各人の無事を確認するといった活動に貢献するので、むやみに拒絶せず「知られてもいい情報」に限って話すといいだろう。

●巡回連絡の情報は紙ベースで作成・保管される

しかもその情報は交番や駐在所で管理されているので、同じ警察署内といえどもパソコンで調べればパッと情報を検索できるといったものではない。

興味本位でいろいろな家庭の情報を覗いてみようなどというイタズラ心が起きても、保管庫はしっかり施錠されているうえに、交番の責任者に許可を受けないと開けられない二重ロック体制だ。

刑事や交通などの捜査目的で閲覧するときも、交番を統括している地域課長に申請し、情報の使用目的などを説明して許可を受けないといけない。閲覧の際はファイリングされた巡回連絡カードの該当部分を事前に外しておくので、関係のない世帯の情報までは閲覧できない仕組みだ。

内部でのセキュリティ体制が確立されているので、面倒な手続きを踏んでまで目的外で情報を閲覧しようと考える捜査員はまずいない。この時代に「紙」ベースで作成・保管することはデータベースとしての活用が難しいという面で不合理だが、紙ベースだからこそ情報が守られているという側面もあるわけだ。

もちろん、保管庫を無理やりこじ開けようにも、派手に破壊しなければ開けられない。外部の人間が情報を盗もうと企てても、交番に侵入して保管庫を探し当てたうえで保管庫を破壊するほどの余裕はないだろう。

●おわりに

巡回連絡に応じるかどうかはあくまでも任意。

だから、街頭での職務質問と同じで「答えたくない」と拒否してもなんら問題はない。何らかの容疑をかけられている状況ではなく協力者側の立場なので、職務質問と比べれば拒否は難しくないだろう。

しかし、火災・自然災害などに万が一のトラブルに遭遇したときは、身元確認や関係者への連絡に役立つので、むやみに拒否するのも得策とはいえない。

警察サイドも、個人情報保護の意識が高まっているなかで家庭の情報を知られたくないという人が増えているのは承知している。巡回連絡カードの「枠」がすべて埋まるほどの開示は期待していないので、有事の際に連絡がもらえるための保険として、世帯構成や緊急連絡先の回答にとどめておけばよいだろう。

【プロフィール】 鷹橋公宣(ライター):元警察官。1978年、広島県生まれ。2006年、大分県警察官を拝命し、在職中は刑事として主に詐欺・横領・選挙・贈収賄などの知能犯事件の捜査に従事。退職後はWebライターとして法律事務所のコンテンツ執筆のほか、詐欺被害者を救済するサイトのアドバイザーなども務めている。

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