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国葬批判の「変化球」、自治体に続々と放つ 住民監査請求を仕掛けた弁護士の戦略
住民監査請求の中心となっている谷次郎弁護士(本人提供)

国葬批判の「変化球」、自治体に続々と放つ 住民監査請求を仕掛けた弁護士の戦略

安倍晋三元首相の国葬が9月27日に迫っている。報道によると、静岡、長野、沖縄を除く44都道府県の知事が参列を表明した。

国葬は違憲であり、こうした知事らの参列に公費を支出することは地方自治法に違反するとして、差し止めを求める住民監査請求をする弁護士たちがいる。北海道、大阪、兵庫、京都に加え、長野、奈良、広島、茨城、神奈川などで自らが請求人となったのは10人超に上る。

大阪府では全国の先陣を切って意見陳述が行われ、27日より前に監査委員の判断結果が出る見通しとみられる。中心となっている谷次郎弁護士に、話を聞いた。

●住民監査請求なら60日以内に結論が出る

ーー請求書では、国葬の歴史を挙げながら政府の決定過程や開催自体が違憲だという主張が大部分を占めています。一見、本流ではないような公費支出差し止めという住民監査請求という形に至った経緯を教えてください。

最初の問題意識は、東京・増上寺で葬儀のあった7月12日に北海道帯広市や兵庫県三田市など複数の自治体で、教育委員会が学校に半旗掲揚を要請したことです。弔意の強制につながるような国葬は、思想信条の自由に反して違憲だとの考えから、仲間の弁護士とSNSで連絡を取り合いました。

当初は行政訴訟か民事訴訟か、訴訟なら本訴か仮処分かなどと考えていました。修習地だった北海道や関西の弁護士らと8月初旬にウェブ会議をして、ブレインストーミングのように案を出し合っている中で、住民監査請求のアイデアが出ました。

訴訟は年単位でかかるが、監査請求なら60日以内という短期で結論が出る。請求人はそこに住んでいる人ですから、北海道と京阪神それぞれで可能だと、8月19日を目標に4道府県で同時に行おうと大急ぎで監査請求書を作りました。

ーー反響は大きく、全国で後に続く動きも出ています。

当初は、人の葬儀をやめろというのは反発を受けるのではないかとの危惧もありました。しかし世論調査で国葬反対が上回るなどの動向もあって、関西ローカルだけでなく、全国に報道され、多くの人から好意的に受け止めていただきました。

自治体の公費支出の差し止めという「変化球」でしたけど、どこの地域でも使える汎用性のある資料をつくりました。その結果、広がっていったのだと思います。四国や東北からも問い合わせがきています。

本来、弁護士は後始末をするのが普通ですが、本件に関しては法が持っているシステムをうまく使って、予防的な動きができた珍しいケースです。大阪府監査委員はスピーディーに進めている印象なので、近々結果が出るとみています。

●自治体は「思想良心の自由」にどう向き合うのか

ーー9月2日には、請求者代表として意見陳述書を出したそうですね。

8月19日の請求後に出てきた諸課題や、議論の経過を踏まえて以下のように陳述しました(編集部一部抜粋)。

8月26日の閣議で、弔意表明を求める閣議了解は行わない、とされました。しかし、「国葬」という形式を取ることによって、国レベルの弔意表明要請がなくても、自治体レベルでの弔意の表明要請が行われることが容易に予想されます。

国葬に対する世論調査の結果では、各社とも「国葬」に反対の意見が過半数を占めている状況です。内心の自由、思想良心の自由というきわめてデリケートな問題を含む「国葬」に対して地方公共団体としてどのように対応するのか、ということについてはどうか慎重に検討して頂きたいと思います。

国葬そのものの違憲違法、不当性の問題と、地方自治法の解釈問題として「住民の福祉増進」という地方自治体の目的に照らして国葬に参列するのか、という問題があります。監査委員の皆様には、国葬に関する財務会計行為の違法性不当性を認めていただき、歯止めを掛けていただきたいと切望しています。

ーー監査の結果いかんでは、訴訟に発展するのでしょうか?

それは他の請求人の方々と話し合ってということになります。進行としては大阪が先頭を切っているので、考えなければなりません。その他は意見陳述の日程でいえば、兵庫、京都、北海道の順に進んでいます。

卒業式で国歌を斉唱しないなどした公立学校の教職員の処分にまつわる「日の丸・君が代訴訟」や原発差し止めを問う行政訴訟など全国各地で弁護団が作られるような訴訟にも携わっていますが、こういう形で旗振り役として動いたのは初めてです。

住民監査請求は事後でも1年以内は可能です。世論が二分している国葬に対して公費を支出するかどうかについて、それぞれの自治体の立場が問われているのではないでしょうか。 

プロフィール

谷 次郎
谷 次郎(たに じろう)弁護士 冠木克彦法律事務所
2012年登録後、大飯原発行政訴訟弁護団などに加わる。大阪府の元高校教諭が君が代斉唱で起立しなかったことなどから定年後の再任用を拒否された問題では原告代理人を務め、府に賠償を命じた判決が最高裁で確定している。

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