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酔いに揺られて「山手線を3周半」の大冒険 酔っ払い大学生が支払うべき金額は?
(tarousite / PIXTA)

酔いに揺られて「山手線を3周半」の大冒険 酔っ払い大学生が支払うべき金額は?

酔っ払って、電車でついつい寝入ってしまった経験をもつ人は多いだろう。しかし、どこまでが許される範囲なのだろうか。首都圏の大学生・ケンタさんの知人A君が寝入ってしまった区間は、なんと山手線3周半だったという。

ケンタさんが言う。「高校時代からの友人との集まりで、その日はお昼から飲み始め、最終的に翌朝5時まで、約17時間飲み続けました。A君は足元もおぼつかない様子だったので、店から一番近いJRのX駅改札まで送り届けました」。

その後、ケンタさんらは帰宅。約1時間後、無事に帰れたかを聞くためにLINEでメッセージを送るが、既読にならず、電話してもAくんは電話に出なかった。「あいつ、寝ているぞ」。友人たちが位置共有アプリを確認したところ、Aくんは都内を高速に回っていることがわかったからだ。

「あまりに高速なので電車に乗っていることはすぐわかりました。ルートを見ると、山手線内回り。アプリは、Aくんが山手線に揺られ、ぐるぐる周る様子をリアルタイムで教えてくれます。自宅から一番近い山手線駅で待機。その後、入線した山手線に乗車し、 Aくんを見つけることができました」

途中、山手線から別のJR線に乗り換えをし、A君の自宅の最寄り駅まで送っていってあげたそうだ。

「結局、AくんはX駅から自宅最寄のY駅までの直線ルートの金額を支払ったようです。ただ、よく考えると、彼は山手線を3周半しているわけで、本来であればその金額を支払うべきだったのではないでしょうか」と話す。

Aくんの場合、最短ルートでは565円となるが、実際にはプラス3週分の乗車区間があった。Aくんは最短ルートではなく、実際に乗車した区間分の運賃を支払うべきだったのだろうか。鉄道に造詣の深い甲本晃啓弁護士に聞いた。

●たまたま寝過ごしただけなら「誤乗」、不正乗車なら3倍の運賃費

ーー実際に乗車した経路に対応する運賃を支払う必要はないのでしょうか?

そもそも、座席数の少ない通勤電車の座席を占有して、時間つぶしや寝床代わりにすることは、乗車マナーとして適切ではないと思われますが、今回は法的問題に絞って考えてみましょう。

私たちが電車に乗る際、法律上は鉄道会社との間で旅客輸送契約を結び、鉄道会社はこの契約に基づいて私たちを輸送し、私たちは運賃を支払っています。

この契約の内容は「旅客営業規則」などの約款で定められており、運賃の計算方法も定められています。

たまたま寝過ごして乗り越して本来の目的駅へ戻る場合は、「誤乗」として扱われますので、追加運賃は必要ありません(同規則291条)。

ーーもしも「うっかり」誤乗した訳ではないケースではどう判断されますか

Aさんが、寝るためだけに山手線を何周も乗車していた場合には、実際に乗った周回数に応じた運賃を支払う必要があります。

その場合は「不正乗車」として3倍の「増運賃」の支払を求められる可能性があります(JR旅客営業規則264条1項)。 

このように、反対方向を含む同じ区間を重複して乗車した場合、実際の乗車経路に対応する運賃を支払う義務があります。

ただし、JR線の「大都市近郊区間」といわれる首都圏などの指定されたエリア内であれば、いわゆる「一筆書き」となるように一度通った区間を通らない乗車経路で、途中下車をしないといったルールのもとで、実際の乗車経路に関わらず最短経路の運賃を払えばよいとする取り扱いを認めています。

鉄道マニアの間では「大回り乗車」と呼ばれるテクニックで、YouTubeにも多数動画がアップされています。興味のある方はルールを守って挑戦してみましょう。

プロフィール

甲本 晃啓
甲本 晃啓(こうもと あきひろ)弁護士 甲本・佐藤法律会計事務所
理系出身の弁護士・弁理士。東京大学大学院修了。丸の内に本部をおく「甲本・佐藤法律会計事務所」「伊藤・甲本国際商標特許事務所」の共同代表。専門は知的財産法で、著作権と特許・商標に明るい。鉄道に造詣が深く、関東の駅百選に選ばれた「根府川」駅近くに特許事務所の小田原オフィスを開設した。

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