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巨額寄付を集める旧統一教会に批判の声、なぜ宗教法人は非課税なのか
信者が3000万円で購入するという聖本(弁護士ドットコム撮影)

巨額寄付を集める旧統一教会に批判の声、なぜ宗教法人は非課税なのか

安倍元首相が銃撃され殺害された事件で、山上容疑者は、母親が入信している宗教団体「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)に恨みを持ち、「安倍氏がこの団体とつながりがあると思い込んで犯行に及んだ」という趣旨の供述をしています。山上容疑者の母親は、旧統一教会に約1億円の献金をし、自己破産して生活に困窮していたからです。

山上容疑者は、成績優秀で奈良県有数の進学校に通っていたにもかかわらず、貧困のため大学には進学できず、犯行時は無職となっていました。今回の犯行自体は許されるものではありませんが、貧困の原因となった旧統一教会に恨みを持つ気持ちに理解を示す声もあがっています。

ここで疑問に思うのは、宗教法人はなぜ非課税なのかという点です。会社の場合、収益があればしっかり税金が取られるのに、何億円もの収入があっても宗教法人は非課税です。どうして、宗教法人は税の優遇を受けているのでしょうか。(ライター・岩下爽)

●宗教法人の「収益事業」以外の収益は課税されない

法人税法では、公益法人および特別法で設立が認められている公益を目的とする事業を行う法人を「公益法人等」としています。その範囲は、法人税法別表第二で定められており、宗教法人はこの中に含まれています。

宗教というのは、神や仏などの超自然的なものへの信仰です。それを信じる者が「信者」になり、信者の心の拠り所になるということで、公共性が認められていると考えられます。

公益法人等は、収益事業については課税されますが、それ以外の収益については課税されません。その理由については、①収益分配をしないので原則非課税ですが、営利企業とのバランスから例外的に収益については課税するという見解と、②法人実在説から原則は課税対象ですが、公益活動を推進するため収益事業以外は免税されているという見解があります。

いずれの見解にせよ、宗教法人は全てが非課税というわけではなく、収益事業については課税されます。収益事業は、法人税法施行令第5条に定められており、34事業になります。収益事業の税率は、800万円超の場合、宗教法人は「19%」ですが、公益法人やNPO法人は、「23.20%」になっています。この点でも宗教法人は優遇されています。

●どのようなものが課税されるのか

(1)「絵はがき」や「キーホルダー」の販売

お寺や神社などでは、絵はがき、カレンダー、キーホルダー、線香、ろうそくなどが売られていますが、これらは物品の販売なので収益事業となり課税対象になります。ただし、神前、仏前等にささげるために下賜するものは、収益事業には該当しないとされています。このあたりの判断は難しいところです。

(2)「おみくじ」や「お守り」

「おみくじ」や「お守り」の販売は、非課税になります。「おみくじ」や「お守り」の原材料は紙や布なので原価は非常に安いものですが、販売価格は原価に対して高くなっているため、通常の物品の販売ではなく、宗教的に意味のある物品の販売とされています。

「おみくじ」や「お守り」を作っている会社は納税しているのに、それを販売する宗教法人は非課税というのは不公平なような気もしますが、信じない人は購入しなければよいだけなので、実害があるとまでは言えません。「ハローキティお守り」など、物品とどこが違うのか微妙なものもありますが、「神様の魂が入っている」と言われるとどうしようもありません。

(3)墓地の貸付

宗教法人の墓地の貸付については、非課税とされています。不動産貸付業というよりはお墓という特殊な用途のための土地の貸付であることが考慮されていると思われます。ただし、お寺や神社で本堂に隣接するところで駐車場を経営し、収益を得ている場合には駐車場業として収益事業に該当するので課税対象になります。

(4)所蔵品の展示

宗教法人が、貴重な仏像や掛け軸などを展示し、入場料を取る行為については非課税です。美術館や博物館で同様の仏像や掛け軸などの展示を行った場合の収益には課税されるのに、宗教法人が行った場合には非課税というのは理解に苦しみますが、たとえば仏像の拝観の場合、「お参りも兼ねている」と言われるとどうしようもないので、非課税としていると思われます。

(5)結婚式、葬式

葬式はもちろんですが、結婚式も宗教的儀式とされるので、それら収益は非課税になります。ただし、披露宴も同じ場所で行われる場合、場所代、衣装代、飲食代などの収益は課税対象となります。

●旧統一教会、3000万円の聖本が非課税になる理由

全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、旧統一教会は信者に3,000万円で「聖本」を売りつけているとのことです。先ほどのお守りの理屈からすると、原価に対して明らかに高い値段で販売しているので、宗教的意義のある物品の販売として非課税になります。

しかし、3,000万円という値段はあまりにも高額で、宗教的意義のある物品の販売というより、詐欺に近いと言わざるを得ません。

旧統一教会の巧みなところは、そのような批判を避けるために、「聖本は販売しておらず、献金に貢献してくれた人に無償で与えている」としていることです。宗教法人に対する献金はいくら払おうが、自由意思によるものであれば犯罪にはならず、貢献した信者に聖本を無償で交付することも何ら違法ではないから全く問題ないという理屈です。

●宗教法人のビジネスモデルはどこも似ている

旧統一教会の主張は詭弁と言っていいでしょうが、他の宗教法人は全く問題ないと言えるでしょうか。旧統一教会と形態は違うにしても、何らかの理由を付けてお金を取るという意味では似ていることをしています。

たとえば、日本では一般的に受け入れられている仏教でも、なぜか死後には別の名前が必要ということで「戒名」を付けなければなりません。その費用も名前を付けるだけなのに、「信士・信女」で約30万~50万円、「院居士・院大姉」なら100万円以上が相場となっています。

これも、住職に値段を聞いても明確には答えず、「○○万円位でお支払い頂くことが多いですが、お気持ちで構いません」と言われます。あくまで、本人の自由意思で支払ったという体裁を取るわけです。

旧統一教会ほど高額ではないにしろ、名前を付けるだけで100万円以上とるというのは問題ではないのか微妙なところです。身内が亡くなり心理的に弱っているところにつけ込んでいるとも言えます。

最近では、「戒名メーカー」という無料アプリがあり、名前、年齢、宗派を入力すると自動で戒名が出力される便利なものがあります。このアプリは本職の僧侶にも活用されているようなので、遺族が自分で戒名を付ければよいのではないでしょうか。

その他、葬儀でお経を読んでもらいお布施を支払い、位牌の魂入れをしてもらうのにもお布施を支払います。本堂を修理するので檀家で費用を負担してほしいと一方的に金額を通知してきますし、子息が仏教大学に進学するので寄付をしてほしいと言ってきます。旧統一教会より金額は少ないかもしれませんが、やっていることは大して変わらないような気もします。

●宗教に関する規制が難しい理由

人間は弱い生き物なので何かにすがりたいという気持ちになることはあり、実際に宗教に助けられたという人もいるでしょう。世界中に多くの宗教があり、熱心に信仰している人もたくさんいます。したがって、宗教の多くは公益的な役割を担っていることは確かだと思います。

ただ、その中に紛れて悪質な宗教ビジネスがあるのも事実です。旧統一教会のような宗教団体は論外だとしても、それと似たようなことをしている宗教団体はたくさんあります。文化庁のデータによれば、2020年12月31日現在で、日本には、180,544もの宗教法人があります。

煩悩(欲望など)を消滅させて、悟りの道を切り開くことを目指すのが仏教ですが、ベンツなどの高級車に乗っている僧侶や帽子を被った修行僧らが祇園に繰り出している姿を見るとがっかりします。宗教法人は非課税で良いのか疑問に思ってしまいます。

宗教というものは、信じるかどうかの問題であって実体があるわけではないので、本人が納得して任意で支払う以上、規制することは難しいのが実情です。また、与党である公明党は、宗教法人である創価学会から支援を受けていることは公の事実ですから、宗教法人に課税するとなれば公明党が黙っていないはずです。

報道によれば、岸防衛大臣は、社会的に問題のある団体だと認識した上で支援を受けていたと明らかにしており、自民党の福田総務会長は旧統一教会と自民党の国会議員とのつながりについて「何が問題かよく分からない」と述べています。宗教団体の支援は国会議員にとって非常にありがたいものであり、「宗教法人から支援を受けて何が悪い」というスタンスのようです。このような背景がある以上、宗教団体に課税するという動きにはならないでしょう。

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