ドイツに住む夫婦が、3月に生まれた男児の名前を役所に届け出たが、受理を拒否された。その名は「ウィキリークス」。世界的に有名な告発サイトと同じだったのだ。
英デイリー・メールなどによると、父親はイラク出身のジャーナリスト。「ウィキリークスは世界に大きな影響を与えた」というのが、その名を使った理由だという。だが、現地の法律では「子どもの将来に悪影響を及ぼすおそれのある名前は認められない」とされていた。
日本でも約20年前、子どもの名を「悪魔」とした出生届を市役所が受け付けず、大きなニュースになったことがある。もしいま、子どもの名前に「ウィキリークス」あるいは「宇木理久須」と名づけて出生届を出したら、どうなるだろうか。藤本尚道弁護士に聞いた。
●「命名権の濫用」は許されない
「子どもの命名は、原則として親(両親)の自由に委ねられています」
藤本弁護士はこう切り出した。
「法律上は、『常用平易な文字を用いなければならない』という制限があるだけです。名前には、常用漢字と人名用漢字、かたかな、ひらがな、長音符の「ー」のほか、『々』『ゝ』などの踊り字が使えます」
つまり、「こういう名前をつけてはいけない」と、法律で具体的に例示されているわけではないようだ。
「しかし、名前は親が子どもの幸せを願ってつけるものです。また、個人を特定するという社会的な機能を持ちます。ですから、社会常識から逸脱した明らかに不適切な名前や、子どもの利益や人格を害する名前は、『命名権の濫用』として許されません」
では、市役所や役場などで出生届を受け付ける窓口の担当者は、赤ちゃんの名前を一つ一つ審査しているのだろうか。
「市町村長の命名に関する審査権は、使えない文字をチェックするだけの『形式的審査権』にすぎません。これは、その内容にまで踏み込む『実質的審査権』とは違います。市町村長が名前の受理を拒否できるのはあくまで例外的なケースであり、『悪魔ちゃん事件』のように『命名権の濫用』が明らかな場合に限られます」
●判断が悩ましい名前は、そのまま受理される
今回、ドイツで問題となった「ウィキリークス」ちゃんはどうだろう。
「『ウィキリークス』については英雄視する意見も多いですが、他方で苦々しく思う立場の人もいます。その意味で、社会的に見て、子どもの名前として適切かどうかは大いに疑問です」
これは、「命名権の濫用」に当たると言えるだろうか。
「いいえ。明らかな『命名権の濫用』にあたるかと言えば、そうではありません。確かに疑問に感じますし、この名前はどうかと思います。しかし、このような『悩ましいレベル』では、例外的な市町村長の『拒否権の発動』までは許されないと言うべきでしょう」
つまり、日本では、「ウィキリークス」ちゃんの命名がそのまま受理される可能性があるということのようだ。