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給湯器故障で「家賃の減額」求める→即修理に 賃貸での設備トラブルで知っておきたいこと
写真はイメージです(aki / PIXTA)

給湯器故障で「家賃の減額」求める→即修理に 賃貸での設備トラブルで知っておきたいこと

「給湯器が壊れている件、色々調べたら民法第611条で『家賃の減額』が認められているらしい」。こんなツイートが話題となりました。

ツイート主は、家主から壊れた給湯器の修理に「数カ月かかる」と言われたのですが、民法611条を根拠に家賃減額を求めたところ、急遽、修理が翌日になったそうです。

このツイートは1万以上リツイートされ、「勉強になりました」「覚えておこう」とコメントが寄せられています。

もし、賃貸住宅でこのような設備のトラブルが起こった場合、どのように交渉したら良いのでしょうか。鈴木義仁弁護士に聞きました。

●民法改正で何が変わった?

——ツイート主は、2020年4月に民法611条が改正されたことも紹介しています。改正により、何が変わったのでしょうか?

2020年の民法改正によって、民法611条も改正されました。改正前は、賃借物の一部滅失の場合には、賃借人は滅失した部分の割合に応じて「賃料の減額を請求することができる」とされていました。

改正により、賃借物の一部滅失その他の事由により使用収益ができなくなった場合には、賃料は、使用収益ができなくなった部分の割合に応じて、「減額される」という文言に変わりました。

改正前は、賃借人からの賃料を減額してくれと言う必要がありましたが、改正後は、当然に減額されることになりました。

——「一部滅失その他の事由により使用収益ができなくなった場合」とは?

物理的に破損した場合に限らず、設備の不具合によって一部が使用できない場合も減額されることになります。

ただし、どのような使用不能でも当然に減額されるわけではなく、通常の居住をすることができない程度の使用不能でなければ、減額は認められないので注意が必要です。

●賃料減額のガイドラインがある

——いくら減額されますか?

問題は、いくら減額されるのかということですが、法律の条文には基準についての記載がなく、賃料減額についての裁判例もありますが、事案によって減額の割合は異なり、判例上の基準もありません。

そこで、参考となるのが、(公財)日本賃貸住宅管理協会が作成した「貸室・設備の不具合による賃料減額ガイドライン」です。ガイドラインでは、不具合の状況に応じて賃料減額割合と免責日数が定められています。

たとえば、電気が使えない場合には、賃料減額割合は40%、免責日数2日と定められています。月額賃料10万円で電気が7日間使えなかったとすると、10万円÷月30日×0.4×(7-2)=約6667円の減額となります。

実例を知りたい場合には、国土交通省作成の「改正民法施行に伴う民間賃貸住宅における対応事例集」も参考になるでしょう。風呂が使えない、エアコンが使えないなどの場合の賃料減額の実例が掲載されています。

——賃借人側が何かすることはあるのでしょうか?

賃料は自動的に下がるわけではありません。また、賃貸借契約書で修繕義務に関して民法の規定とは異なる特約を結ぶことができますから、修繕義務を賃借人負担とするような規定になっていないかどうかなど、まず賃貸借契約書の修繕義務に関する条項を確認しましょう。

修繕義務が借り主負担でない場合には、賃借人は修繕が必要なことを遅滞なく賃貸人に通知しなければなりません(民法615条)。そのうえで、賃貸人側が現場を確認し、賃貸人が修繕義務を負うと判断した場合に、修繕のための業者を手配することになります。

修繕を完了しても、不具合発生から修繕完了までの期間は、借り主が通常の使用収益ができない場合に減額されることになります。

——揉めた場合はどうしたら良いのでしょう。

しかし、争いになったときには、賃借人が「使用収益できなくなったこと」「自分のせいではないこと」を証明しなければなりません。最低限、不具合発生時の写真や動画などの証拠は取っておく必要があります。

話し合いがつかなければ、賃料減額の調停を申し立て、調停でも話がまとまらなければ、賃料減額の裁判をせざるをえません。減額される金額が少額であれば、裁判までするとかえって赤字になりかねません。

このように、手続き的には民法611条が改正されたからと言って、改正前と何の変化もありません。争いを回避するためには、あらかじめ賃貸借契約書で、一部滅失の事由と減額割合等を明記しておくのが望ましいでしょう。

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プロフィール

鈴木 義仁
鈴木 義仁(すずき よしひと)弁護士 法律事務所横濱アカデミア
元神奈川大学大学院法務研究科教授。前横浜市消費生活審議会会長。著書に「悪徳商法にご用心」(共著:日本評論社)、「訴える側の株主代表訴訟」(共著:民事法研究会)「くらしの法律相談ハンドブック(共著:旬報社)」

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