ネット中傷で出家した元アナ「攻撃に苦しむ人を癒す」寺を建立、「死にたい」のSOSが届くことも
髙橋美清さん。尋清寺で撮影(2020年12月23日、弁護士ドットコムニュース)

ネット中傷で出家した元アナ「攻撃に苦しむ人を癒す」寺を建立、「死にたい」のSOSが届くことも

インターネットの誹謗中傷で追い詰められる人がいます。先の東京五輪でも、アスリートへの心無い中傷が問題になりました。

弁護士ドットコムニュースでは、ネットのすさまじい中傷を受け、一時は命を断つことまで考えるほど追い込まれた元フリーアナウンサーで天台宗僧侶の髙橋美清さん(当時55)を取材しました(2020年7月11日記事)。

高橋さんは、ある業界関係者の男性からのストーカー被害を受け、事件化することになりました。ところが、逮捕後すぐに不慮の事故で男性が死亡してしまうと、世間の矛先がすべて髙橋さんに向けられ、ひどいネット中傷に襲われたのです。加害者たちを突き止めて面会した高橋さんは、この問題の深刻さを痛感しました。

この体験を誰かのために活かすため、学校や自治体で講演活動などをおこなっています。今年6月にはNHK「逆転人生」でその生き様が取り上げられ、反響があったそうです。

「NHKに出たことで、私を知った多くのひとから、中傷の被害相談だけでなく、人生相談が届いています。その内容は労働や家族問題など多岐にわたりますが、その背景には新型コロナウイルスの影響があると感じられます。なかには『死にたい』とSOSを送ってくる人も」

コロナで先行き不透明な社会に胸を痛めているといいます。

「テレビに出て目立つことで、私の活動を売名行為という人もいます。でもね、中傷で命を絶つことがあってはいけない。なんとかなる。そのメッセージが苦しんでいる人に伝わればいいのです」

髙橋さんは、中傷などに悩む人々からの相談を聞くため、昨年12月には「天台宗 照諦山 心月院 尋清寺(じんせいじ)」を群馬県に建立しました。お寺を作った経緯や、中傷の加害者にも被害者にもさせたくないという思いを語ったインタビュー記事「ネット中傷の被害者癒す『駆け込み寺ができました』壮絶体験で出家の元アナ建立、苦しみはここに置いていって」(2021年1月2日)を一部修正のうえ、再掲載します(日時、年齢などは当時のままです)。

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●苦しむ人を癒す寺ができました

お寺ができましたーー。2020年12月、髙橋さんから連絡を受け、群馬県伊勢崎市に向かった。

55歳最後の日の12月20日に、本尊の薬師瑠璃光如来への「開眼(かいげん=魂を入れること)」を済ませたばかりだという。

プロレスラーの木村花さんをはじめとした著名人の自死や、新型コロナウイルスに関した深刻な誹謗中傷を懸念し、群馬県では、12月22日に全国初の「県インターネット上の誹謗中傷等の被害者支援等に関する条例」を施行した。

被害者支援の視点で相談窓口を設置・サポートするとともに、加害者を生み出さないようにメディアリテラシーの教育にも注力することを宣言した形だ。

県に先駆け、大泉町では、SNSなどの誹謗中傷被害者の支援事業に取り組んできた。9月には包括的な相談支援窓口を開設。訪れた被害者の負担をへらし、警察・弁護士・医療機関・法務局・就労支援など関係機関へのアクセスを容易にすることが目的だ。

相談者が役所の窓口を訪れたとき、刑事・民事上の手続きをしたいなら弁護士や警察に。心・体のケアを求めるなら、医師会につなげることになる。

高橋さんの壮絶な体験を知った大泉町から、中傷のサバイバーとして、意見を求められ、7月中には会議に参加し、制度の準備にたずさわった。そして、正式に11月5日から、「SNS等被害者支援ネットワーク会議」のメンバーという肩書きが増えた。

被害者として困ったことや、警察・行政が力になってくれなかったことを町長らと協議し、あるいは「物申した」ことが町の事業にも反映された。

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●一番大事なのは、被害者に仕事を

町に強く要望したのは、窓口で「あっちいけ、こっちいけ」とたらい回しは厳禁だということ。連携先に、必ずハローワークも含めること。

「表に出るアナウンサーの仕事をしていたこともあり、中傷を受けた私はメディアからブツっと切られ、仕事をすべて失いました。一般の会社にお勤めのかたでも、職場にいられなくなることがあります。

中傷が仕事に関係するものだったり、発信者が実は会社関係の人だったりすることが多いんです。怖くて会社に行けなくなったという相談がよくあります」

職場と中傷に全く関係がなくても、中傷のダメージで被害妄想に囚われ、結果的に仕事をなくす人もいるという。そんな人でも助けてほしいと話す。

「なにより大事なのは仕事です。新型コロナで大変な思いをされているかたがたくさんいます。仕事を失くして生活ができなくなれば、死に直結する。安心がなくなれば人は死にたくなります」

髙橋さんは、自分が精神的にどん底で、ある被害者支援団体を訪れたときの気持ちを覚えている。

「助けを求めるとき、過度に期待をするんです。きっと解決の糸口になると。そう思って連絡したけど、私の期待が大きすぎて失望しました。申し訳ないけど。

だから、そこまでケアするんだというくらいに行政は支援を手厚くしないとダメですと言いました。雲をつかむように仕事を探させないでねと」

そして、1人は無力であり、1人きりにならないでほしいと強調する。

「誹謗中傷の被害を受けたら、この場所に逃げればいいんだということを県も町も示した。個人は無力です。なんにもできない。行政の力は大きいです。面倒な事務手続きはすべて任せて、心を休めることができます」

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●加害者をつくらない

支援と同じく、啓発も事業の柱だ。大泉町では、小中学校の教員らに教育プログラム「ネットセーフティーアドバイザー」受講をすすめ、児童の安全なネット利用につなげていくという。

髙橋さんは12月8日、大泉北中学校の体育館で、生徒ら250人に向けて、自身の体験を伝えた。大人の扱いをしなくてはと思いつつ、子どもだから、伝えかたには気を付けたという。

まずは、ネットに書くことは、楽しいだけではなく、怖いことだと伝えた。

「感情に任せて、ネットに書かないこと。書いたことは自分に返ってくるよ。書くときには、『私は●●です』と自分の名前が付いている気持ちで書きなさい。一度書いてしまえば、消そう、消したと思っても、海や宇宙のゴミのように、漂流しているだけで、なくなることはない」

そして、困っていても、絶対に助かるんだということも伝えた。

「書かれてどうにもならない人も、死んではいけないよと伝えました。中学生もそろそろ命のことがわかるでしょ。人の命は無限ではなく、限りがある。書かれたら追い詰められてしまうけど、このようなことで死んではいけないよ。命と引き換えにしてはいけない。

あなたたちは大泉町に、群馬県に生まれて良かったよ。町に救いの手があって、必ず、必ず助けてくれるんだもん。台風で雨宿りしているときみたいに、いっときはつらいし、我慢が必要だけど、ひとりじゃなく、大人と一緒に解決しようね」

ここでの「大泉町、群馬県に生まれて良かったよ」という呼び掛けは、行政へのプレッシャーだろう。制度だけ作っても、支援が実際に機能しなければ、子どもや、被害者に嘘をつくことになる。

髙橋さんは、町と県の取り組みを高く評価もしているが、今も「会議」のメンバーとして、内側から制度のありかたを見ていく。

講演ではほかに、ネットの情報がすべて正しいと思ってはいけないということも伝えた。

●「尼さんがなんか言ってたな」と思い出して

なぜ小学生・高校生ではなく、中学生を対象にしたのだろう。

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「小学生だと、中傷と言っても、まだ生活の中の実感がない。高校生だともう教えても遅いんですね。私の話を聞いたら、一応、わかりましたと言うと思うんですが、言葉の染み込みかたが違うかな。心が柔軟な中学生のうちにお伝えしておこうという考えではないでしょうか」

「子どもたち、体育着で床に座るから冷たくてごめんねと思いながら、なるべく全員の顔を見て話しました。寝ている子もいないし、素直にうなずいて、真剣に聞いてくれているようでした」

届けられた中学生のアンケートには「怖いとわかった」など書かれてあったそうだ。

「あとで学校の先生たちと話しましたが、講演を聞いて、怖いと思ってくれた子や、助かると思った今まさに困っている子もいたでしょうし、なかにはまずいなと思った子もいるでしょうね。次はやらないでほしい。

すべて伝わったとは思いませんよ。彼らがもう少し大人になって、ネットを触ったときに、僕たちが中学生のときに、学校に尼さんが来て何か言ってたなあと思ってくれればいいんです」

●木村花さんをネット中傷した男性が書類送検

202012月17日、警視庁は大阪府の20代男性を侮辱容疑で書類送検した。5月、木村花さんに対して匿名で「いつ死ぬの?」などのツイッター投稿をしたとされる(東京簡裁は2021年3月、男性に科料9000円の略式命令を出した)。

「ニュースを聞いて、当然だと思いました。そして、遅いなと思いました。木村花さんが有名人でなければ、捜査も書類送検もされなかったと思う。

中傷は殺人と同じですよね。書類送検されたのは1人でも、彼女を死に追いやったのは1人だけじゃないと思う。

被害にあって思うのは、被害者のプライバシーは守られません。国による情報開示請求の裁判の簡略化も検討が進められています。とても良いことですが、まだぬるい。被害者としては、書き込みの削除まで求めます」

●天台宗 照諦山 心月院 尋清寺

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寺の話に移ろう。長く準備を重ね、夏から改装工事を進めて、2020年12月に正式に天台宗から許しが出て、新寺建立された。

寺は自宅でもあるから、髙橋さんは「髙橋住職」になった。野良の猫が庭にいて、建物の中には飼い犬がいる。動物たちを「副住職」と呼んでいる。

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正式名称は「天台宗 照諦山 心月院 尋清寺」だ。髙橋美「清」さんを「尋」ねていく「寺」だから、尋清寺ーー。ではなかった。

「うちの御本尊は薬師瑠璃光如来です。薬壺(やっこ)の中の薬を塗って、つらい心を清らかにしてくださる仏さまです」

薬師如来の真言は「おん、びせいぜい、びせいぜい、びせいじゃ、さんぼり、ぎゃていそわか」で、これら「びせい」とは薬という意味だ。

「痛いことや、苦しいことを、うちの薬師さんに預けて、身と心を清らかにして帰ってね。帰るときには、清らかになったのか自分に尋ねてね。そういう意味で、尋清寺(じんせいじ)と名付けました」

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助けを求める人には、「うちで一緒に庭の草むしりしません?」とよく誘っている。

「苦しい状況から抜け出すとき、月や朝日を見たり、海に行ったり、人間以外の自然のものに触れるのがいいですよ。

草引きは最高ですね。無心になって1日あっという間に終わります。うちには犬も猫もいて、のんびりしてくださいな。

首を吊れ、何時に死ねと言われていたとき、昼間は人を見るのが怖くて、カーテン閉めてとじこもっていました。あのときの手帳には『緊急事態』と書かれています。夜にようやく家から出て、縁側に腰掛けて、よく猫に話を聞いてもらっていました」

大変で面倒なことは、大泉町の行政のようなところに、事務的に任せて、あとは心を1日も早く清らかに、元気になりましょう。

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2021年8月で、お坊さんになって10年です。前半戦はアナウンサーの仕事をしていましたが、あの事件をきっかけに僧侶として生きていくことになりました」

メディアに出るようになり、救いを求める人たちの連絡がドッと増えた。

「私も生身の人間なので、一度に対応はできませんが、できることはします。こんな大変な目に遭った人だというだけではなく、行動で示します。

スケートリンクに初めて出るのは怖いですよね。何度か転ぶ経験をしたら怖くなくなる。私は叩かれて落ちるところまで落ちて、心の処し方もわかってきました。つらいですが、命を引き換えにしてはいけません。死んじゃダメ。

特にこの2〜3年、国も対策に動き始めましたが、中傷で亡くなるかたのニュースが増えました。貴重な命が失われないと、対策は進みませんでした。

でも、有名人が亡くなればニュースになるけど、私たちの知らないところで、一般のかたが亡くなってきている。せめてこれ以上、犠牲が出ないよう形にしなければね」

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