米フロリダ州マイアミの美術館で、展示されていた壺が地元在住の男性によって壊される事件が起こった。壊されたのは、約2000年前の漢時代に作られた壺に、中国人芸術家の艾未未(アイ・ウェイウェイ)さんが色を付けた美術品。その価値は日本円で約1億円にのぼるという。
ロイター通信によると、男性は美術館の警備員の前で、壺を地面に落として割り、逮捕された。男性は壺がそれほど高価なものだとは知らなかったとのことで、「ホームセンターで売っているような普通の壺だと思っていた」と地元紙に語ったという。
展示品を壊せば、当然、美術館から損害賠償を請求されることも考えられる。もしこれが日本で起きたなら、賠償額はどのように算定されるのだろうか。「高価な壺とは知らなかった」という主張が認められ、損害賠償額が低くおさえられることもあるのだろうか。前島申長弁護士に聞いた。
●賠償額は「客観的」に算定される
「結論から申しますと、仮に『高価な壺と知らなかった』という男性の言い分が通ったとしても、損害賠償額を減額することは難しいと思われます」
前島弁護士はこのように結論づけた。どうしてそうなるのか。
「本件のように、誤って他人の所有物を破損したようなケースでは、不法行為に基づく損害賠償請求(民法709条)がされることになるでしょう。
仮に全損(修理不能)だったとすると、こうしたケースで認められる損害額は、全損させた物の『客観的な価値相当額』になります。
身近な例で話をすると、交通事故で全損させた相手車がたまたま高級外車なら、損害額はその高級外車の『客観的な価格相当額』になります。もちろん減価償却などは考慮されますが、一般的な車の価格を支払えば済むわけではない、ということです」
そうなると、価値が1億円とされる壺だったら・・・
「本件で問題となっている壺は、高名な芸術家が作成した美術品です。壺の客観的な価値相当額が1億円ということですから、仮に全損だったとしたら、1億円が賠償額として認定されることになるでしょう。
もっとも、被害者側に一定の落ち度があったような場合、たとえば美術館側が、壺を極めて不安定な場所に放置していたようなケースなら、過失相殺(民法722条2項)が認められ、過失の割合に基づいて、一定の減額が認められる可能性はあります」
結局のところ、物を壊した当人が、その物の価値をどう捉えていようと、賠償額には影響しないということだ。美術館のように、高価な品が手の届く場所に置いてあるような場所では、特に注意して行動したほうがよさそうだ。