同級生から同性愛者であることを暴露(アウティング)された一橋大ロースクールの男子学生(当時25歳)が、2015年8月に大学構内の建物から転落死したことをめぐる訴訟で、遺族側が10月7日、控訴審の判決期日を取り消し、弁論を再開するよう東京高裁に申し立てた。大学側が公表していなかった新事実が明らかになったためとしている。
控訴審では、遺族側と大学側の和解協議が続いてきた。遺族側は最終的に、謝罪や賠償は要求せず、アウティング問題について学内での啓発や再発防止を求める内容を提案したが、一橋大が受け入れなかった。
申し立てが通れば、審理が再開されることになるが、認められなければ、予定通り11月25日の判決となる。
●もともとは大学の説明不足から提訴
遺族側は、事件や対応の経緯などの説明を求めても、大学から情報が出て来ないことに不信感を抱き、真実を知りたいと2016年に提訴。学生が大学に相談していたのに適切な対応がとられなかったなどと主張したが、一審の東京地裁では「大学側は転落死を予見できなかった」として敗訴した。なお、暴露した学生も訴えていたが、一審の途中で和解している。
遺族側が弁論再開が必要な理由としてあげているのが、東京新聞(8月24日)の報道だ。学生の死から5年目に出されたこの記事では、弁護士になった学友が匿名で取材に応えており、転落死の後に職員から説明があったことなどを語っている。これは裁判を通じても明らかになっていなかった情報だという。
遺族側は、学生の死後、大学組織内でどのような情報共有と意思決定がなされ、具体的にどのような行動がとられたかは、一連の経緯について、大学側がどのように認識していたかの判断に必要だと主張。さらなる審理が必要と求めている。
●「裁判官の裁量」
遺族側代理人の南和行弁護士は取材に対し、「申し立てが通るかは裁判官の裁量で決まる。事件が知られたことで、社会では新しい動きが出てきた一方、情報の開示が十分でなく、大学が事件をどういう風に受け止め、対応しようとしたのかは最後まで分からなかった」と語った。
編集部は一橋大に対して、東京新聞が報道した、事件後の説明が本当にあったのかどうか、また事件以降、大学として始めたり強化したりしたアウティング問題についての対応などがないか、尋ねている。回答があり次第、追記する。
【10月8日追記】
一橋大は10月8日、「係属中であることから、本学としてコメント等は差し控えたく存じます」と回答した。
また、南弁護士によると、10月8日に裁判所から申し立てを認めない旨の連絡があったという。予定通り、11月25日に判決が言い渡される。