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「胡散臭い」「ハニートラップ」に「いいね」、法的責任は問える? 伊藤詩織さんの訴訟で注目の論点
伊藤詩織さん(2020年6月8日、都内で弁護士ドットコム撮影)

「胡散臭い」「ハニートラップ」に「いいね」、法的責任は問える? 伊藤詩織さんの訴訟で注目の論点

誹謗中傷にあたるツイートを「いいね」することで、法的責任を問われるのかーー。リツイートに続き、ツイッターの機能が論点となる裁判が始まった。

ジャーナリストの伊藤詩織さんが8月20日、ツイッターの「いいね」で名誉感情を侵害されたとして、自民党の杉田水脈衆院議員に対し、慰謝料など220万円の支払いを求めて東京地裁に提訴した

一体どのような「いいね」を問題としているのだろうか。

●「枕営業の失敗ですよね」に「いいね」

伊藤さんが問題とした「いいね」は、複数ある。訴状によると、一つ目は、2018年6月30日〜7月12日に投稿された5つのツイートに対する「いいね」だ。

杉田議員は2018年6月28日に英BBC放送で放送された伊藤詩織さんを取り上げた番組で、「伊藤詩織さんが記者会見をおこなって、嘘の主張をした」などと発言しました。その後、自身のツイッターで「介抱してくれた男性のベッドに半裸で潜り込むような事をする女性」などと記した。

上記のツイートに寄せられた「顔を出して告発する時点で胡散臭い」という返信を杉田議員は「いいね」した。

さらに、「枕営業の失敗ですよね」という他人のツイートに「いいね」し、杉田議員に対する批判的なツイートに「レイプ関係の事実関係が怪しすぎる」「彼女がハニートラップを仕掛け」などと返信する他人のツイートに「いいね」した。

二つ目は、2018年7月16〜17日に投稿された20個のツイートに対する「いいね」だ。

杉田議員は2018年7月16日にブログを更新し、ツイッターでも最新記事を知らせるツイートを流した。このブログの内容に対する批判的なツイートに対し「(伊藤さんは)相手をレイプ魔呼ばわりした卑怯者」「詩織さんの行動が招いた結果」などと返信する8つの他人のツイートに「いいね」した。

さらに、ブログの内容を批判するツイート主に対し「誰だよてめーは」「変態やな」「なんだこいつ」などと暴言を浴びせる12個のツイートにも「いいね」した。

伊藤さんは、伊藤さんについて書かれた文言が「名誉感情を侵害するもの」であり、ブログの内容を批判するツイート主を袋だたきにするツイートに「いいね」を押すことは「賞賛しているように映る」と指摘。

ツイッターの「いいね」は他人のツイートに対する好意的な気持ちを示すために用いられるものであり、ツイッターの閲覧者には杉田議員が好感を宣明していると映ること、不特定多数が認識しうる場でなされており、フォロワーが11万人もいることから、「社会通念上許される限度を超えた名誉感情侵害行為にあたる」と主張している。

●「いいね」で名誉感情を侵害するのか

伊藤さんは、これらの「いいね」で名誉感情を侵害されたとしている。名誉毀損とどう違うのだろうか。

ネットの誹謗中傷問題にくわしい小沢一仁弁護士は「名誉毀損は外部的名誉を保護するものであり、名誉感情侵害は主観的名誉感情を保護するものであることが最も異なります。そのため、前者では公然性や社会的評価の低下が要件になるのに対し、後者は公然性も社会的評価の低下も要件とはなりません」と説明する。

「いいね」に関しては、SNSサービス「ミクシィ」の「イイネ」機能について、発言に対して賛同の意を示すものにとどまり、仮につぶやきなどが名誉を毀損するなどの内容であったとしても、つぶやきに「イイネ!」を押したことで、そのつぶやきなどの内容について不法行為責任を負うことはない、との判断が出ている(平成26年3月20日東京地裁判決)。

ツイッターの「いいね」についての裁判例はないが、どのように判断されるのだろうか。

小沢弁護士は「基本的には『いいね』はその言葉通り賛同を示すものだと思いますので、いいねをした側の認識がそうでなくても、いいねをしたツイートで話題とされた人の名誉感情は侵害されうるとした上で、「仮に侵害されたとしても、社会通念上許容される範囲を超えるものと判断されるかは、杉田議員の影響力を考慮しても微妙ではないか」とみる。

「いいねをして賛意を示したこと自体が伊藤さんの名誉感情を侵害するのかという点については、賛意自体は伊藤さんに対して直接向けられたものではありませんし、他人の意見に賛成すること自体が違法とされてしまうと、言論の自由に対する過度な制限にもなり得ると思われます」(小沢弁護士)

●「いいね」の拡散性は?

また、ツイッターは、フォローしている人が「いいね」した投稿がタイムラインに流れてくる仕様になっている。伊藤さんの代理人をつとめる佃克彦弁護士は「いいねに拡散性があることは問題の一因ではあるが、そこで述べられている言葉の内容が、伊藤さんを傷つけるものであることが問題」としている。

この仕様について、小沢弁護士は「限定的とはいえリツイートと同じ結果をもたらすと考えられるので、リツイートと同じ理由で違法と判断される可能性はあると思う。むしろこの点が判決の結論を左右するのではないか」と指摘する。

「いいねの拡散機能ではなく、あえていいね自体を問題にしているのは、いいねによっても人は傷つくのだという、被害者側の実態に即した判断を得たいという気持ちが大きいからではないか。

拡散機能を問題とすると、賛同をすること自体の責任の有無ではなく、拡散されたツイートが伊藤さんの権利を侵害するか否かが問題になり、判断を求めたいこととずれが生じてしまうため、このような主張構成にしたのではないかと考えます」(小沢弁護士)

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