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クレジットカードの貸し借りは夫婦間でも禁止…もし使ってしまったら?
画像はイメージです(MAPS / PIXTA)

クレジットカードの貸し借りは夫婦間でも禁止…もし使ってしまったら?

夫から渡されたクレジットカードで支払ったが「本人ではないので」と文句を言われたーー。店舗の掲示板にこんなご意見カードが貼られているという画像がツイッターで話題となった。

この意見に対して店舗側は、「クレカ決済は、日本クレジット協会の規定で、基本的には本人しか使用できないルールとなっている」としたうえで、家族が使用するなら家族カードを作ってほしいと回答している。

●夫婦間でもクレカの貸し借りは禁止

日本クレジット協会のホームページには、「たとえ家族といえども貸し借りできない」ことが明記されている。また、通常、クレカの会員規約には「カードを他人に貸与してはならず、カードを他人に使用させてはならない」ことが定められている。

したがって、夫婦間といえども、クレカの貸し借りが禁止されているのは明らかだ。

ネットでも、「本人しか使えないのが当たり前」「家族カードを作るべき」という意見がほとんどで、クレカの貸し借りが禁止されていることは広く認知されているようだ。

夫婦であれば財布は共通という家庭も少なくなさそうだが、なぜ夫婦間でもクレカの貸し借りは禁止されているのだろうか。また、妻が夫のクレカを借りて使用した場合、どのような法的責任が問われるだろうか。清水俊弁護士に聞いた。

●カード会社は会員本人の「信用」をもとに発行している

ーークレカで支払った場合、どのように処理されるのでしょうか

「クレジットカード払いとは、クレジットカード会社が商品代金を立て替え、カード会員がクレジットカード会社に後払いする決済システムです。

店舗側としてはその時点で現金がない人にも購入してもらえるため、販売機会や売上の増加が見込まれ、代わりに商品代金の数パーセントを決済手数料として支払います。

クレジットカード会社は、決済手数料を得るのと引き換えに、カード会員から商品代金を回収するリスクを負います。

このシステムの根幹にあるのがカード会員の『信用』です。ここでいう『信用』とは、年収や資産、職業などを総合的に判断した支払の意思・能力を言い、会員ごとに審査されます。

カード会員本人なら破滅するような不合理な使い方をしないかもしれないが、支払いの責任を負わない他人だと本人の支払能力を無視した使い方をするおそれがあるので、他人への貸与を禁止しています」

ーー夫婦間での貸与もダメなのでしょうか

「夫婦間であれば基本的に財布が一緒だから問題ないじゃないか、といった疑問や反論があると思います。確かに、多くの夫婦は家計が同一であるため、破綻的な使い方をするおそれはないかもしれません。

ただ、戸籍上夫婦といっても実態は様々で必ずしも財布が一緒とは限りませんし、夫婦関係が破綻している場合もあります。多くはないかもしれませんが例外的な場合があり得る以上、たとえ夫婦間であっても一律に貸与禁止とせざるを得ないのです。

クレジットカード会社としても、名義人の『信用』をもとに『家族カード』を発行しており、夫婦間で貸し借りをする必要がないよう手立てを講じています」

●夫婦間での貸し借りがバレれば、タダでは済まない

ーーダメとはいえ、実際には夫婦間でクレカの貸し借りは難しくなさそうです

「暗証番号を夫婦で共有している場合や、少額の買い物などでサインレス決済ができる場合など、現実には夫婦間でのカードの貸し借りはできてしまうでしょう」

ーー貸し借りがバレてしまった場合、法的責任はどうなりますか

「まず、規約違反である以上、カード会社が用意している補償が受けられなかったり、会員契約を解除されたりといった民事上のペナルティが課せられることが考えられます。

『他人に貸してはいけない』という最も基本的な約束を破ることで、システムの根幹である会員の『信用』が揺らいでしまうからです」

ーー刑事責任はどうでしょうか

「店舗側との関係では、最高裁決定(平成16年2月9日)にもあるように、カードの正当な権限があるものと誤信させて商品の交付を受けたとして、詐欺罪が成立し得ます。

この最高裁決定の事例は全くの他人がカードを使用したケースですが、近親者など名義人本人と同視しうる者のカード利用だとしても、形式的には詐欺罪が成立し得ます。

もっとも、妻が夫のカードを使う場合など明らかに与信を受けた名義人とは別人であることを店舗側が認識していた場合や、名前や性別から明らかな場合には、店舗側の錯誤がないとして詐欺未遂罪に留まる余地があります。

また、仮に形式的には詐欺罪が成立する場合でも、実質的な被害が生じていないなど事案が軽微であれば、起訴にまで至らないように思います」

プロフィール

清水 俊
清水 俊(しみず しゅん)弁護士 横浜合同法律事務所
2010年12月に弁護士登録、以来、民事・家事・刑事・行政など幅広い分野で多くの事件を扱ってきました。「衣食住その基盤の労働を守る弁護士」を目指し、市民にとって身近な法曹であることを心がけています。個人の刑事専門ウェブサイトでも活動しています(https://www.shimizulaw-keijibengo.com/)。

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