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健康保険に入れない外国人、超高額の診察報酬「200%、300%」の衝撃…支援現場の実態を聞く
NPO法人北関東医療相談会の長澤正隆さん(撮影/塚田恭子)

健康保険に入れない外国人、超高額の診察報酬「200%、300%」の衝撃…支援現場の実態を聞く

出入国在留管理庁(入管)によって、一時的に収容を解かれている仮放免者。これまで何度も報じられているように、彼・彼女らは就労を禁じられ、健康保険に加入することも、事前に申請して許可を得ない限り、県境をまたいで移動することもできない。

食料を確保するのが苦しい・とても苦しい人=89%、家賃負担が苦しい・とても苦しい人=82%、経済的な問題により医療を受けられない人=84%、年収0円の人=70%……。

四半世紀にわたって困窮する外国人を、主に医療面から支援してきたNPO法人北関東医療相談会(AMIGOS)が、仮放免者の生活実態を把握するために実施した日本初の調査の結果は、多くのメディアで取り上げられ、追いつめられた彼・彼女らの状況を可視化した。

AMIGOSが支援している人たちの中には、すぐにも手術が必要な人もいる。だが、健康保険のない仮放免者に対して、200%、300%の診療報酬を見積もる病院も少なくないという。人の命を救うはずの病院が、なぜ困窮する外国人にそのような対応をするのか。

健康保険のない、けれど治療が必要な人たちを医療へつなぐため、東奔西走するAMIGOS事務局長の長澤正隆さんに、仮放免者の医療、そして生活状況を聞いた。(取材・文/塚田恭子)

●制度から弾き飛ばされた人々に健康診断を

病気を早期発見することで治療につなげられるようにと、1990年代に外国人のための無料医療相談会・健康診断会を始め、これまで、のべ3100人を超える非正規滞在者の健康診断をおこなってきたAMIGOS。

長澤さんが外国人への医療支援を始めたのは、フィリピン出身の出稼ぎ労働者にガンが見つかり、手術の保証人を依頼されたことがきっかけだったという。

「病院で開腹したときはすでに手遅れで、彼は亡くなりました。今も状況はさして変わりませんが、出稼ぎに来た父親を失うことは、家族にとって大きな打撃です。今後、同じようなことが起きたら、家族はどうなるか。そう考えたとき、健康診断を受けて病気を早期発見できれば、命をつなぐことができるのではないかと思ったんです。

保健医療を中心に国際協力をしている団体と活動した2年間の準備期間を経て、1997年から群馬県伊勢崎市で、無料健康相談会や健康診断を始めました。そのころは超過滞在者も働いていてお金があったので、1人2000円もらって健診費用にあてていましたが、2008年のリーマンショックを機に、多くの人の生活は厳しくなり、今は健診も無料でおこなっています。

ケガや病気になった際、在留資格のない人は、制度から弾き飛ばされてしまうので、そういうはざまにいる人たちを支援してきました」

入管の施設内では、多くの人が心身のバランスを崩している。調子が悪いとき、私たちならすぐに足を運ぶ内科や歯科なども、診察費が100%かかる仮放免者には重い負担で、通院に二の足を踏んでしまう。ましてやガンや心臓病など、高額になる手術を自費治療で受けることはほぼ不可能だ。

収容施設内で体調不良を訴えても、鎮痛剤と精神安定剤が出されるだけ。収容者は詐病を疑われ、なかなか診察してもらえない。ようやく外部病院で診察を受け、病状の深刻さが判明し、手に負えないとなると、それまでとは一転、厄介払いのように仮放免を認める。

こうした入管の責任逃れによって体調を悪化させ、一時はホームレス状態になった末、ガンで命を落とした人、治療費を工面できず、「ここはホテルじゃないんだから、早く帰れ」と医師に言われ、12月の寒空の下、午前2時に病院から追い出された人も。こうした追い詰められた人々を長澤さんは何人も見てきた。

●仮放免者に200%、300%の診療報酬を請求

長引くコロナ禍で、仮放免者の生活は厳しさを増し、支援にかかるお金の桁が上がっていると、長澤さんは指摘する。

「医療費だけで2020年度は531万円、2021年度は1227万円かかっています。去年は記者会見を通じて多くの方から寄付をいただきましたが、こうした支援を得るためにも、メディアを通じて活動の実績を紹介してもらうことは大切だと思っています」

昨年から今年にかけて、AMIGOSでは卵巣ガン、難聴、上室性頻脈(脈が突然、異常に速くなり、突然止まる不整脈)、狭心症を患った仮放免者たちの手術を支援している。

手術費と抗ガン剤治療で500万円かかると言われた卵巣ガンの女性のケースは、記者会見で状況を伝えると、ひと月で500万円の寄付金が集まった。その後、女性は弁護士や支援者の尽力で在留特別許可(在特)を得て健康保険に加入、高額療養費制度も利用できたことで、医療費は200万円ほどに抑えることができたという。

記者会見で衝撃を受けたのは、病院側が健康保険のない仮放免者に200%、300%の診療報酬を請求するという話だった。保険がないから負担が100%になる。ここまでは、健康保険への加入を認めてほしいという自分の心情は別として、まだ理解できる。だが、200%、300%を請求するのはなぜなのか。

「公的な保険が適用されない自由診療だから、病院は自由に請求できるということなのでしょう。でも、相手は仮放免者です。彼・彼女らに300%の診療費を請求するのは、診療拒否と一緒です。断るための口実、あるいは病院が本当に利益として取ろうと思っているのかもしれませんが、それ自体、おかしいことです。

某国立病院では、悪性黒色腫になった仮放免者の検査費を300%請求すると言われました。私は帰ってすぐ病院長宛に『地域に問題を抱えた外国人がいるのに、病院として何を見て料金設定をしているのか。保険適用を考えてもらえないのか、回答してほしい』と手紙を書きました。こうしたやりとりの結果、最終的に病院は本人の健康保険への加入の手続きをおこない、治療もしてもらえることになりました」

かつては行政が現場対応で保険証を出していたし、今も健康保険は自治体の判断で出せるものだと長澤さんは言う。

「ところが、市町村から都道府県、都道府県から厚労省にうかがいを立てるのが通例になって、時間がかかるからと、自治体が保険証を出さなくなっているんです。まずは国の医療機関の負担にならない制度をつくり、生活困窮者に必要なことは何かを考えてほしいと思います」

●まだ生きているから在特を出さなくても大丈夫

前述した上室性頻脈の手術を受けたのは、中東の少数民族クルド人の中学2年生の男子だ。一家は父親の在特が去年の年初、突然、不許可となり、家族全員が仮放免者になったため、健康保険を失った。

発作が起こると、彼の脈拍はあっという間に200近くに上がるという。落ち着くころには汗だくで、とても勉強にならない。だが、健康保険なしに、一家が高額な医療を負担するあてはない。

男子を取材をした記者がなぜ(在留資格を)出してあげないのですかと尋ねると、入管の職員は「まだ大丈夫だから」と答えたという。

「職員にとって『まだ生きているから大丈夫』ということなのかもしれませんが、そんな健康管理の仕方がどこにあるというのでしょう。

難聴の手術をした南米の男性についても、いつになったら在特を出してくれるのかと入管に尋ねると、毎回、何をしてほしいのか書面で出せと言われ、毎回、書面を出す、そんなやりとりがずっと続きました。

収容施設内で人が亡くならなければいいと、そんな対応をする人たちと私たちは闘っていかないといけないんです」

コロナが広がった2020年春、クラスターを懸念した入管は、それまでから一転、仮放免を認める方針に転換した。だが、繰り返しになるが、仮放免者は就労できず、健康保険に入ることも、移動の自由もない。長澤さんが言うように、彼・彼女らは外にいても、見えない牢屋に入れられているのと変わらない。

「病気だからと外に出した人たちの生活について、入管は本人任せ、NPO任せです。被収容者処遇規則30条には『所長等は、被収容者がり病し、又は負傷したときは、医師の診療を受けさせ、病状により適当な措置を講じなければならない』とあります。仮放免者の健康と生活を守るために、入管には外に出ている仮放免者にも、この規則を適用してほしいと思います」

●関係性をつくり、交渉して手術費を調整してもらう

AMIGOSが手術を依頼するのは基本、無料低額診療(無低)をおこなっている病院だ。無低は生活困難者が、経済的な理由によって必要な医療を受ける機会を制限されないよう、無料または低額で医療をおこなう制度で、長澤さんは治療や手術にかかる費用について、病院側といろいろ相談して決めていくという。

「狭心症で冬場は歩くことも大変だったネパール男性も、無事、手術が済みました。最初に相談した病院に断られ、引き受けてくれた病院から言われた手術費は150万円。無低でやってもらえるようお願いして、3割をAMIGOSが持つことで話がまとまったあと、病院側が予備のステントを提供してくれたおかげで、最終的に手術費は25万円で済みました。日頃から関係をつくることで、こうしたことも可能になります」

同じ病院にばかり依頼すると、病院側も大変なので、できるだけ分散するようにしているという。これはコロナ禍、医療費の支払いが滞るケースが増加しているためで、ある無低の病院では、前年度の未収金が1000万円を超えるなど、厳しい経営状況になっている。

日本人には、生活保護がある。だが、仮放免者にはこうしたセーフティーネットもない。帰らないのではなく、帰れない状況を抱えて日本にいながら在留資格を得られず、就労できず、健康保険にも加入できない。そんな人たちと、彼・彼女らを助ける最後の砦である無低を守ろうと、AMIGOS、移住連、反貧困ネットワークが連携して、署名活動もおこなっている。

最も大変なことの一つは協力病院を探すことだそうだが、活動への理解と共感が広がるなか、AMIGOSに賛同し、仮放免者の治療を引き受ける個人病院も出てきているという。

「病院探しと病院への同行には、時間と労力がかかります。定期通院が決まり、こちらがきちんと治療費を支払うと理解してくれた病院には請求書をあげてもらい、治療費を振込むことで了承してもらっています。諸事情を電話で伝え、理解してもらえた病院には、本人と医療通訳者で通院日時を決めてもらうなど、仮放免者、支援者、病院が共倒れしないための制度も少しずつ整えています」

病と貧困に苦しむ仮放免者のために奔走する長澤さんの多忙さは、周囲の多くの人たちが知るところだ。

「私たちがイライラすれば、不安定な状況にいる仮放免の人たちにも影響してしまうので、そういう状況は避けたいですね。AMIGOSの名前や活動が知られるにつれ、いろいろなところから声がかかるようになって、それに応じることで、こちらも多くを学んでいます。とにかく病気を抱えている仮放免者を支援するため、できることをやり続ける。それだけですね」

だが、篤志、寄付、自助共助はすでに限界を超えている。格差を助長する政治が生んだ今の状況のままでは、仮放免者、支援者、病院とも立ちゆかない。在留資格がなければ、何もしない。それは住民に対する行政の適切なあり方だろうか。

「今、入管の長期収容に対して訴訟を起こしているイランの男性は、今年1月、仮放免者で初めて自立支援(精神通院)医療受給者証を得ました。取得まで半年かかりましたが、こうしていったん風穴を開けて前例ができると、他の自治体もそれに続きます。

外国人にとってもよい社会をつくることは、遠くない将来、日本にもプラスになる。これからはそういう視点が必要だと思います」

【プロフィール】
ながさわ・まさたか/1954年北海道出身。NPO法人 北関東医療相談会(AMIGOS)の事務局長。2006年カトリックさいたま教区終身助祭になる。AMIGOSでは、長年、健康診断をメインに生活に困窮する外国人への医療支援をおこなってきたが、長引くコロナ禍で、外国人コミュニティの自助共助は限界に達し、近年は困窮者への家賃支援や食糧支援もおこなっている。その活動が取り上げられたNHK ETV『こころの時代』が9月10日に再放送の予定。

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