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アメリカ市民「中国政府を訴えてやる」 コロナ拡大で集団訴訟あいつぐ
画像はイメージです(barks / PIXTA)

アメリカ市民「中国政府を訴えてやる」 コロナ拡大で集団訴訟あいつぐ

新型コロナウイルスの感染者数が3月下旬に世界最多となり、その後も増加の一途をたどっている米国。ニューヨークなどの大都市圏を中心に深刻な状況だといい、すでに各地で外出規制などが行われているという。

そんな状況のなか米国では、中国政府を相手取り、損害賠償の支払いを求める集団訴訟の動きが相次いでいるという。

時事通信(3月29日)によると、フロリダ州で3月中旬、個人や企業が中国政府に対して訴訟を提起。中国での感染発生時の初期対応に問題があったため大流行を招いたとして、健康被害や経済的損失に対して巨額の賠償を求めるつもりだという。

同様の訴訟は、テキサス州やネバダ州でも起こされているという。

日本国内でも新型コロナウイルスの感染者数は増加。4月7日にはついに非常事態宣言が発令された。健康被害はもちろんのこと、経済活動の低下・停止による損失も懸念されている。

では、損害があったからといって、日本国民が他国の政府相手に訴訟を提起することは可能なのだろうか。林朋寛弁護士に聞いた。

●コロナの損害について他国の政府相手に裁判するのは相当困難

ーー日本国民が他国の政府相手に訴訟を起こすことは可能でしょうか

「日本国民が他国の政府相手に日本の裁判所に訴訟提起をする場合、『外国等に対する我が国の民事裁判権に関する法律』(以下「対外国民事裁判権法」)の規定が問題になります。

対外国民事裁判権法では、外国の政府等はわが国の民事裁判権(裁判権のうち刑事に関するもの以外)から原則として免除されることになっています(4条)。

ただし、商業的取引や労働契約、日本国内の不動産に関する使用等については、免除の対象から除外されています。これらの除外対象の他、人の死亡・傷害または有体物の滅失・毀損の損害賠償請求についても限定的に除外されています。

新型コロナウイルスの感染についての損害賠償請求訴訟を起こすとすれば、この除外の場合にあたるかどうかが問題になるでしょう」

ーー裁判を進めるうえでは、どんなハードルがありそうでしょうか

「外国政府を相手に人の死亡・傷害または有体物の滅失・毀損の損害賠償請求をするには、その外国政府が責任を負うべき行為の全部または一部が日本国内で行われることが必要です。

さらに、その行為をした者がその行為時に日本国内に所在していたことも必要です(対外国民事裁判権法10条)。

今回の新型コロナウイルスの件で、中国政府が責任を負うべき行為の一部でも日本国内で行われたこと、その行為者がその行為時に日本国内に所在していたことという要件を具体的に主張・立証するのは困難だと思われます。

なお、中国政府を相手とせずに中国の個人等を相手に訴訟を起こすということも考えられます。

しかし、その場合でも日本の裁判所に裁判権があるのか問題になります。

外国で行われた加害行為の結果が日本国内で発生した場合において、日本国内におけるその結果の発生が通常予見することのできないものであったときには、日本の裁判所に裁判権はないからです(民事訴訟法3条の3第8号)」

●「他国を非難しようという動きには同調せずに、冷静であるべき」

ーー米国における訴訟の動きをどう考えればいいのでしょうか

「米国内での中国政府に対する訴訟の動きについては、『訴訟社会』の一言で片付けて良いものかどうかは分かりません。

一方の中国においても、武漢市の弁護士が米国政府等を相手に武漢の裁判所に損害賠償請求を起こしたという報道もあります。

米国・中国それぞれにおける訴訟の動きは、それぞれの思惑で関わっている人々がいるでしょうから、単純な分析・論評は難しいように考えます」

ーー新型コロナウイルスの影響による損害は今後ますます増えそうです

「感染拡大の各国内の被害について直接の責任を負わなければならないのは、そもそもそれぞれの国の政府や自治体でしょう。この点に目を背けて他国を非難しようという動きには同調せずに、冷静であるべきです。

少なくとも日本と米国は民主制の国ですから、自国の政府や地元自治体が非常時に適切な措置・判断をしたかどうかは、とどのつまりはそれぞれの国民・住民の平時の投票行動や政治への関心の結果の表れだと思います」

プロフィール

林 朋寛
林 朋寛(はやし ともひろ)弁護士 北海道コンテンツ法律事務所
北海道江別市出身。札幌南高、大阪大学卒。京都大学大学院法学研究科修士課程修了。平成17年10月弁護士登録(東京弁護士会)。沖縄弁護士会を経て、平成28年から札幌弁護士会所属。 居住地(選挙区)で国民の一票の価値が異なる問題についての選挙無効訴訟に関与している。

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