5%から8%になっただけでもキツいのに、来年には10%になるのか――。消費税の増税で負担感が増していくなか、ため息をついている人は少なくないかもしれない。そんな庶民の税負担を減らすために検討されているのが、生活必需品の消費税率を低くおさえる「軽減税率」だ。
自民・公明両党は6月上旬、与党税制協議会を開き、軽減税率制度の素案を発表した。報道によると、飲食料品に適用する場合の対象品目について、8案を示しており、すべての飲食料品に軽減税率を導入した場合は、約6600億円の税収減につながるという。
そもそも軽減税率というのは、どんな仕組みになっているのだろうか。また、導入に向けてどのようなハードルがあるのだろうか。中野克美税理士に聞いた。
●軽減税率の目的は「低所得者」の保護
「所得税は所得が高い人ほど高い税率が適用されます。これは、課税対象が高ければ高いほど、税負担が重くなる『累進性』と呼ばれる性質です。日本での税負担は基本的にこの考え方が反映されています。
一方、消費税は、誰でも消費した物やサービスについて、同じ税率が適用されています。そのため所得が低い人ほど、所得に占める消費税の負担の割合が大きくなります。これは課税対象が低ければ低いほど税負担が重くなる『逆進性』という性質です。
この消費税の逆進性から低所得者を保護するために、軽減税率導入が検討されているわけです」
中野税理士はこのように説明する。特定の生活必需品の消費税率を低く抑えることが低所得者の保護につながるというのは、具体的にどういうことだろうか?
「所得が低い人ほど、所得に占める生活必需品の消費割合が高いためです。生活必需品を軽減税率の対象にすることで、低所得者層が負担する消費税割合を軽減させることができると考えられているからです。
しかし一方で、軽減税率は実務面でいくつか問題があるとも言われています」
●「生活必需品」かどうかの判断は難しい
「大きくふたつの点が考えられます。ひとつは『生活必需品か否かの判断』がとても難しいことです。
たとえば、『飲食店のイートイン』は生活必需品なのか? あるいは『飲食店のテイクアウト』は生活必需品だろうか?
飲食店の場合で考えると、このような疑問が湧いてきます。また、そもそも外食が生活必需なのか、ぜいたくか、という問題もあります。軽減税率を導入した場合には、このように判断に迷うケースが無数に生じると思われます」
もうひとつは「事業者の『事務負担の増加』です。請求書発行業務ひとつを取っても、現在の方法では困難になるでしょう。また、システムを複数税率に対応させるなどの投資も必要になってくるでしょう」ということだ。
税負担が減るのであればぜひ実現してほしい制度だが、実現のハードルはとても高そうだ。
【取材協力税理士】
中野克美(なかの・かつみ)税理士
大学卒業後税理士業界に勤務。税理士登録後は80人規模の税理士法人のパートナーに就任し、責任者として支店の新規出店、税理士事務所との合併、会社設立サポート、会社設立直後の社長に対する資金調達サポート、経理合理化などの業務に携わる。経営者の真のパートナーになるには、自ら起業をして創業者になる必要があるのではないかという想いから、税理士事務所を開業し今に至る。
事務所名:税理士事務所パピィプロジェクト
事務所URL:http://pappy-zeirishi.com/