親から大学生への「仕送り」の額が、1986年の調査開始以来、最低額を更新している。東京地区私立大学教職員組合連合(東京私大教連)の調べだと、首都圏の私立大学に通う下宿生の平均仕送り月額は、1994年度の12万4900円をピークに下がり続け、2013年度には過去最低の8万9000円まで落ち込んだ。
一方で、家賃の平均は6万900円となっているため、仕送り額から家賃を引いた生活費は2万8100円にしかならない計算だ。つまり、一日あたり1000円に満たないのだ。東京私大教連の報告書によれば、「不足する生活費や学業の経費は、アルバイト等の収入でおぎなっていると思われる」ということだ。
ところで、この「仕送り」。税法上は、どんな扱いになっているのだろうか。仕送りには「贈与税」がかからないのだろうか。高橋寿克税理士に話を聞いた。
●通常必要な額であれば仕送りは「非課税」
「仕送りは法律上、『贈与』になりますが、通常の仕送りであれば贈与税はかかりません」
高橋税理士はこう述べる。なぜだろうか?
「次の3つの条件をすべて満たす贈与は、贈与税が非課税になるからです。
(1)扶養義務者(配偶者。直系血族。兄弟姉妹。生計を一にしている3親等以内の親族)どうしが行う贈与であること
(2)お金を使う目的が生活費、または教育費であること
(3)通常必要と認められる金額の範囲内であること」
通常の仕送りは、これらの条件を満たしている可能性が高い、ということだ。
●高額すぎる「仕送り」には注意が必要
仕送りをする際に、注意すべき点はあるだろうか?
「問題となるのは、仕送りの額が『通常必要と認められる金額』を超えていて、さらに贈与税の基礎控除額(年間110万円)よりも多かった場合ですね。
本来であれば、超過分については贈与税の課税対象ですが、税務署は細かな資金移動まで捕捉していません。
したがって、こうした部分については贈与税が『課税もれ』になることも多いのが実情です」
納税しなくても済むということだろうか?
「いいえ、そうとは言えません。生前に贈与した財産についても、相続をする際に『相続税』を課されることがあるからです」
どういうことだろうか?
「不相当に高額な子(孫)名義の預金は、相続の際に、相続税の対象となる『名義預金』として扱われることがあるのです。
この名義預金は『相続財産』として扱われ、課される税金も『相続税』となりますので、要注意です」
そういうことはよくある?
「実は、相続税の修正申告額が一番多いのが、現金・預貯金です。
相続税については、税務署も徹底的に調査しますので、妻子はもちろん、孫の預金もしっかりと調べ上げられます。
2016年1月からはマイナンバー制度(国民総背番号制)の実施も予定されており、預金の名寄せが現在よりずっと簡単になるでしょう」
どうやら、見逃してもらえるとは考えないほうがよさそうだ。
高橋税理士は「税務署の指摘を受けて修正申告となれば、ペナルティもあります。生前贈与は有効な相続税対策ですが、『生兵法は大怪我のもと』。専門家に相談したうえで行うことをお勧めします」と、アドバイスを送っていた。
【取材協力税理士】
高橋 寿克 (たかはし・ひさかつ)税理士
開成高校・早稲田大学政経学部卒。首都圏に5拠点(新宿、秋葉原、横浜、船橋、新秋津)を持つ税理士法人TOTAL代表社員。農家の12代目で父は農協の統括理事。多数の相続相談を受ける一方、年間400社を超える決算打ち合わせを行う。
事務所名 :税理士・司法書士・社会保険労務士・行政書士事務所 TOTAL
事務所URL:http://www.total-office.jp