新潟県糸魚川市で12月22日に発生した大規模火災で、144棟の建物が焼け、83%が全焼した。被災した人たちにとっては、今後の生活再建や事業の再開などが大きな課題になる。
報道によると、この火災の出火原因は、中華料理店の鍋の空焚きによるものとみられる。店主は「開店前の料理の準備の際、鍋に火をつけたものの、いったん店を離れ、戻ってきたら火が出ていた」と話しているという。
大規模火災による損害額は巨額にのぼる可能性が高いが、実際に鍋の空焚きが原因だった場合、店主は損害賠償の責任を負うのだろうか。好川久治弁護士に聞いた。
●「重大な過失」があったかどうか…過去の裁判例は?
店主が損害賠償責任を負うかどうかは、火元となった店主に重大な過失があったかどうかによります。
失火による延焼被害は、木造家屋が多く、住宅が密集する日本の住宅事情を考慮した失火の責任に関する法律により、火元に重大な過失がなければ、損害賠償責任を問えないことになっています。
「重大な過失」とは、注意義務を著しく怠った場合、すなわち、わずかな注意を払えば被害の発生を防げたのに、その注意すら怠った場合を言います。例えば、寝たばこ、ガスコンロやストーブの火の放置、ガソリン等の揮発性の高い物質の近くでの火の取扱いなどがこれにあたります。
過去に「重大な過失」が認められた事例としては、
(1)天ぷら油を入れた鍋を台所のガスコンロにかけて加熱したまま、2階物干場で洗濯物を干していた間に天ぷら油の温度が上昇して火が油に引火して出火した事例(東京地裁昭和51年4月15日判決)、
(2)鋳物工場において、周囲に可燃物があるにもかかわらず、高温の鋳型を放置して作業場所を離れたところ、段ボールが鋳型に接触して引火した事例(東京地裁平成27年1月15日判決)
などがあります。
●特殊な事情でもない限り、店主は損害賠償責任を免れない
今回の糸魚川の火災は、中華料理店の店主が、鍋に火をつけたまま店を離れて空焚きを招いたということですから、「重大な過失」が認められる典型的な事例です。常時そばにいて火を監視していても火災の発生は避けられなかったというような特殊な事情でもない限り、店主は、損害賠償責任を免れないでしょう。また、刑事事件としても、業務上失火等の罪に問われる可能性があります。
もっとも、今回の火災による損害は数十億円にのぼるとも言われていますので、個人で全ての責任を負いきれるものではありません。店主が破産をしてしまえばなおさらです。
店主が加入する火災保険の特約で、類焼損害を補償する保険や個人賠償責任保険があれば、それによる補償は受けられますが、支払限度額が定められているのが普通ですから到底全額を賄えません。
やはり、最後は被害者が自助努力で加入する火災保険で損害の補償を受けるしかないように思います。