司法試験の問題が漏えいした事件を受けて、法務省が全国の法科大学院に対して、定期試験の問題を提出するよう要請していたことがわかった。司法試験の問題を作成する際の参考にするためだという。
報道によると、法務省の司法試験委員会が11月、法科大学院で行われた2014年度と2015年度の定期試験の問題、平均点、得点分布、出題の趣旨や採点基準などの資料を提供するように要請していたという。
法務省の要請について、法科大学院で教育に携わる弁護士はどうみているのだろうか。正木健司弁護士に聞いた。
●法務省の狙いがどこにあるのか、わかりにくい
「率直な感想として、違和感を覚えます。言うまでもなく、法科大学院も大学であり、憲法上の学問の自由との関係で問題はないのか、慎重に考えるべきだと思います」
正木弁護士はこのように切り出した。
「今回の要請の意図には不明な点もありますが、仮に『漏えいを防ぐために、考査委員から法科大学院の現役教員を外した結果、試験問題の作成に難が生じたから、全法科大学院から定期試験問題を提供させる』というのであれば、本末転倒になりかねないようにも思います。
また、膨大な定期試験問題や関連データを全て提供して、本当に問題作成の参考のためだけに利用されるのか、厳しい競争にさらされている法科大学院にとっては、不安も否めないでしょう」
そもそも、法科大学院の定期試験は、司法試験問題を作成する上で参考になるのだろうか。
「法科大学院の定期試験の問題は、幅広い視野をもった法曹養成のために、実務家を含むバラエティに富んだ教員によって、司法試験分野(ないしその対策)に限定されない問題が出題されています。必ずしも司法試験問題作成の参考になるとは言えません。
正直、法務省の狙いがどこにあるのか、よくわからない部分があります。法科大学院協会が、定期試験問題の提供は今回限りとし、法務省に対し試験問題を作成する目的以外には利用しないよう求めたことも納得できます。
今回の漏えい事件は個人の資質によるところが少なくないと思いますが、今回の法務省の措置は、全法科大学院の教育に影響を与えかねないものであり、改めて事件の影響の甚大さを認識せざるをえません」
正木弁護士はこのように述べていた。