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ワタミ創業者・渡邉会長が社長復帰 弁護士から見た「会長兼社長」の意味とは?
ワタミ本社(Googleストリートビュー)

ワタミ創業者・渡邉会長が社長復帰 弁護士から見た「会長兼社長」の意味とは?

居酒屋大手ワタミは、10月1日付の人事で、創業者である渡邉美樹会長兼グループCEOを社長に復帰させると発表した。渡邉氏が社長を務めるのは都知事選や参議院選挙に出馬する前の2009年以来となる。

発表によれば、渡邉氏の社長復帰は、コロナ禍で居酒屋などの苦戦が続くなか、意思決定の権限を渡邉氏に集めて業績回復を急ぐとともに、執行責任を明確化するためだという。

渡邉氏は会長職を退かず、「会長兼社長」となる。清水邦晃社長兼COO(最高執行責任者)は代表権のある副社長に就任し、同時にCEO・COOの職を廃止する。

「会長」である渡邉氏が「社長」を兼任することにはどんな意味があるのだろうか。会長職を廃して社長職に就くのではダメなのだろうか。島田直行弁護士に聞いた。

●「社長」「会長」の肩書きに法的な意味はない

——「社長」「会長」といった肩書きは、法的にはどのように位置付けられていますか。

経営者を表す言葉にはさまざまなものがありますが、法的な意味をもつのは会社法で定められた「取締役」「代表取締役」といったものです。

逆に言えば、「社長」「会長」「CEO」といったものは、あくまで任意的な肩書き・名称であり、法的な意味はありません。ですから「代表取締役」と「社長」という言葉の間にも法的なつながりはありません。

日本では代表取締役が社長の肩書きを兼ねることが多く、広く利用されてきたため、「代表取締役とは社長のこと」と誤解されている方もいるかもしれません。実際には、取締役でなくとも社長という肩書きを使うことができます。

「社長」「会長」の明確な定義もありません。一般的には「社長=実際に経営の采配を振るう人」「会長=引退して後見的に会社経営に関与する人」とイメージされることが多いと思われます。いわば事業承継を前提にしたひとつの体制といえるでしょう。

ワタミでは、社長と会長の双方が代表取締役になっているようです。創業者である渡邉氏としては、会長に退いたとしても経営における発言力を維持すべく代表取締役という立場を確保していたとも考えられます。

●「日本企業が抱える事業承継の難しさ」が背景に

——ワタミの「会長兼社長」について、意思決定の権限を集中させる目的のようですが、そのほかにどのような効果や経営的な影響があるのでしょうか。

これまでのワタミのように、社長・会長など複数人が代表取締役を務める共同代表取締役の制度は、相互に抑止力が機能するという長所はあるものの、意見が分かれると迅速な意思決定ができないという短所もあります。

新型コロナの広がりにより、多くの飲食店が経営的に苦しい状況に置かれています。ワタミについても「コロナが収束しても売り上げは7割までしか戻らない」という危機認識のもとで脱居酒屋を急いでいるとも報じられています。

先の見えない経営状況では、スピード感をもった経営判断が求められます。「決定できない」ことこそ最大のリスクです。

ワタミの発表によれば、現社長は代表権のある副社長になるということです。同社としては、共同代表取締役という制度を維持しつつ、社長・副社長という事実上の序列を明確にすることで意思決定のスピードをあげたいのだと思われます。

同時に、社長という肩書きを加えることで渡邉氏が経営の中心に戻ってきたことを内外に示す意図もあるといえます。

——「会長兼社長」という経営者は必ずしも珍しくないようです。会長職を廃して社長に就任することでは得られないメリット、あるいは会長職を廃することのデメリットなどが何かあるのでしょうか。

「会長兼社長」という肩書きが増えた背景には、日本企業が抱える事業承継の難しさがあります。

優秀な経営者ほど会長として後見的に経営に関与することが耐えられないわけです。実績があるがゆえに、「自分ならばもっとうまくできる」と考えて社長として現場に舞い戻る。ただし、長期的な戦略として事業承継が必要であることを誰よりも理解しているがゆえに、あえて会長職を残すのでしょう。周囲に対して、「いつでも引退する覚悟がある」ということを言外に示したいというわけです。

こういった「会長兼社長」については、監督する立場と監督される立場を実質的に兼ねることにもなり、ガバナンスとして問題があるという指摘もあります。

企業が時代を超えて成長していくには、確実な権限委譲のみならず、ガバナンス体制の構築が必要です。事業承継を契機に自社のガバナンス体制を見直していただきたいと考えます。

プロフィール

島田 直行
島田 直行(しまだ なおゆき)弁護士 島田法律事務所
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(いずれもプレジデント社)、『院長、クレーマー&問題職員で悩んでいませんか?』(日本法令)

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