「営業企画部部長職として、東京セントラル証券への出向を命じる」。昨年放映されたTBSの人気ドラマ『半沢直樹』の最終回。北大路欣也演じる中野渡(なかのわたり)頭取が、主人公の半沢直樹に出向を言い渡す印象的なシーンだ。
このように銀行では、業務執行をはじめとして、融資や主要人事までさまざまな分野に目配りする最高実力者を「頭取」と呼ぶ。一方、民間企業であれば、経営の最高責任者は「社長」が務めるのが一般的だ。むしろ、頭取という肩書は、銀行以外で聞かないかもしれない。
この「頭取」は法律上、どのように定義されているのだろうか。また、「社長」と「頭取」では、どちらのほうが偉いのだろうか。企業法務にくわしい高島秀行弁護士に話を聞いた。
●「頭取」は「筆頭取締役」の略称?
「『頭取』というのは、現在、銀行でしか使われていない役職だと思います。『筆頭取締役』の略だと言われています。取締役の筆頭、すなわち、地位が一番上の取締役。したがって、代表取締役を意味しますね」
頭取は略称だったのか。さらに高島弁護士は続ける。
「これに対し、『社長』は会社の長、すなわち、会社で一番地位が上の人という意味です。したがって『社長』も通常は、代表取締役を意味することとなります」
どちらも「代表取締役」を意味するということは、どちらが偉いということはないのだろうか。
「そうですね。頭取も社長も、会社で一番地位が上という意味。どちらが偉いということはありませんね。ただし、この頭取も、社長も、俗語であって、法律用語ではありません」
●会長も、副社長も「俗語」にすぎない
では、法律用語の役職名は、いったいどんなものなのだろうか。
「代表取締役と取締役、執行役、監査役などですね。実は、頭取、会長、社長、副社長、専務、常務、相談役、顧問という役職は、法律上の役職ではありません」
なるほど、常務も顧問も、法律用語ではなかったのか。
「社長が俗語であることから、ごく稀に『社長』であって『代表取締役』でない人もいます。代表取締役とは、会社を代表し、契約などの行為を行うことができる取締役のことですが、そのような代表権をもたない社長も、たまにいるのです」
たとえば、ニュースサイト「J-CASTニュース」で知られる株式会社ジェイ・キャストは、その会社サイトによれば、代表取締役をつとめているのは「会長」であって、「社長」は代表権のない取締役ということになっている。
「代表取締役でない『社長』が契約書に署名捺印をしても、無効になってしまう可能性もあるので、注意が必要です。代表取締役以外の取締役は、会社を代表し契約などを締結することができませんから」
社長だけど代表取締役でない人もいるとは。会社の役職名とは、なかなかややこしそうな世界のようだ。