静岡新聞と静岡放送(SBS)は3月9日、両社の経営にあたっていた大石剛社長が同日付で両社の社長を辞任したと発表した。大石氏は今後、静岡新聞では「代表取締役顧問」、SBSでは「非常勤取締役」にそれぞれ就任するという。
大石氏をめぐっては、写真週刊誌「FRIDAY」(2021年3月19日号)で、SBSの女性アナウンサーのダブル不倫疑惑が報じられていた。
この報道に対して、大石元社長は3月5日、「この度は私の軽率な行動でお騒がせをし、申し訳ございません。報道されたような不適切な関係は一切ありませんでした」とコメントしていた。
大石氏は静岡放送と静岡新聞社のオーナーでもあるため、いわゆる「オーナー社長」だった。一般的に、オーナー社長は、自社の株式も多数保有する大株主でもあるため、会社に対して極めて強い権限を有している。
もし仮にオーナー社長が、経営で失敗したり、プライベートで問題を起こしても、一切責任を取らない「暴走」をした場合、誰がどのように責任を追及できるのだろうか。今井俊裕弁護士に聞いた。
●「オーナー社長」のメリット・デメリット、それぞれある
——オーナー社長の特徴とはどのような点にあるでしょうか。
株式上場の有無に関わらず、創業家一族が多数の株式を保有して、経営を実質的に支配している会社は多数あります。また、必ずしも一族で発行済み株式数の過半数まで保有していなくとも、経営を実質的に支配することはありえます。
そのような会社のメリットとして、(1)経営の地盤が安定していることから、株式買収による経営権争奪のような紛争リスクが小さい、(2)経営権の承継がスムーズにできる、(3)長期的な視野で経営にあたることができる、などがあげられます。
一方、デメリットとして、経営者に対するチェック機能が十分でない場合は、(a)経営者による会社資産の公私混同、(b)仲良し人事や人事の不公正が起こりやすく、それによるさらなる経営監視機能の形骸化、(c)社内モチベーションの低下、社内カルチャーの固定化・陳腐化などのおそれもあります。
●少数株主が「オーナー社長」に物申すこと可能
「静岡新聞SBSはマスコミをやめる。」宣言(https://www.at-s.com/userfirst/index.html)
——オーナー社長が経営に失敗したり、プライベートで不祥事を起こした場合、誰が責任を追及できるのでしょうか。
静岡放送のように株式会社であれば、社長など業務の執行にあたる(代表)取締役については、ほかの取締役が相互に監視し、また、取締役会が監督します。たとえば、代表取締役の代表権を失わせる(解職)のであれば、「取締役会」において、出席した取締役の過半数の賛成でできます。
それに加えて、経営上の落ち度で会社に損害を与えた場合は、それを賠償する責任があります。ただし、創業家などの特定の一族が実質的に経営を支配しているならば、一族のなれ合いから、十分な責任追及がされないおそれはあります。
——オーナー社長に物申すことができる雰囲気ではない会社もあるかもしれません。
経営を実質的に支配している取締役や、取締役同士のなれ合いによる弊害を見越して、会社法にはそれを手当てする制度がいくつかあります。
たとえば、多数派とはいえなくとも、一定割合株式を保有していれば、株主総会で取締役を解任する議題・議案を提出できます。仮に決議が否決された場合でも、その取締役に不正行為や、法令・定款違反行為があるときは、裁判所に「取締役の解任の訴え」を提起できます。
あるいは、単独株式でも保有していれば、まずは会社に対して、不祥事を起こして会社に損害を与えた取締役の賠償責任を追求せよ、という請求ができます。
会社がそれに応じないときは、その株主自らが原告となって、会社のためにその取締役を訴えることもでき、最終的には訴訟の場で決着をつけます(株主代表訴訟)。