童謡「森のくまさん」の替え歌を無断でCDにして販売したとして、英語歌詞を和訳した馬場祥弘さん(72)が1月18日、ユニバーサルミュージックと歌っている芸人のパーマ大佐さんに販売差し止めと慰謝料などを求める通知書を送ったことが報じられた。
パーマ大佐さんの歌詞には、「ひとりぼっちの私を 強く抱きしめた熊」「だけど私はダメな子 人に言えない過去がある」など、独自の歌詞が加えられている。馬場さんはこうした改変について承諾しておらず、「著作者人格権の侵害にあたる」と主張しているという。
そもそも、外国語を翻訳した歌詞に著作権は生じるのか。替え歌を販売することは法的に問題はないのか。 河西邦剛弁護士に聞いた。
●「翻訳そのものに創作性があれば、著作権は生じる」
日本の著作権法上は、歌詞と曲は別の著作物となります。「森のくまさん」についてJASRACのサイトで検索してみると、曲については既に著作権の存続期間が過ぎていると考えられ、PD(パブリックドメイン)作品になっています。
今回は、「森のくまさん」を日本語訳した「森のくまさん日本語バージョン」の歌詞についての著作権が問題となりました。外国語を翻訳した歌詞であっても、翻訳そのものに創作性があるので著作権は生じます。
JASRACの検索サイトからは、馬場祥弘氏が「森のくまさん」の日本語訳の著作者ということになっています。著作者ということになると、著作権法上の「同一性保持権」という著作者人格権を取得することになります。
この同一性保持権というのは、著作物の変更、切除や改変を禁止する権利なのですが、著作者の意思に反して改変された場合、「著作者の人格が害される」という考えのもとに認められた権利です。つまり、馬場氏は「森のくまさん」についての歌詞を勝手に改変させることを禁止することができます。
実際裁判になった場合、裁判所が「森のくまさんパーマ大佐バージョン」を、「同一性保持権の侵害」と認定するかは、実際の訴訟進行との関係でどちらとも考えられるところでしょう。
現在の報道では、馬場氏サイドは、「森のくまさんパーマ大佐バージョン」のCD販売中止をしない場合には差止請求をするとの通知書を送ったとされています。
馬場氏は、CDの販売差止だけでなく、パーマ大佐がテレビやライブで「森のくまさんパーマ大佐バージョン」を歌うことの差止請求をすることが理論的には可能であり、その場合にはお茶の間で「森のくまさんパーマ大佐バージョン」が見られなくなることが考えられます。
お笑い芸人の方が、よく替え歌を披露したりしますが、歌詞の著作者に了解を得る必要があるということです。「面白いからいいのでは」「むしろ有名になっていいのでは」という考え方もあるかもしれませんが、法律上はそのようには考えられていません。作詞家の意に反して改変することはできないわけです。
日本の音楽業界では軽視されがちな作詞家、作曲家の権利ですが、法律に則り、きちんと保護される必要があるといえるでしょう。