ディズニー映画『アナと雪の女王』が大ヒットしている。ヒット要因の一つとされるのが、劇中で流れる挿入歌だ。主題歌『Let It Go』は、子どもから大人まで幅広い世代に人気で、サウンドトラックがオリコン週間アルバムランキングで1位を獲得した。
その人気は、動画サイトYouTubeに投稿された「口パク」動画の多さからも、うかがい知れる。あたかも自分たちがその劇中歌をうたっているようにみえる動画を一般人がつくるのが、世界中で流行しているのだ。日本語バージョンもあり、なかには300万回以上再生されているものもある。
しかし、ディズニーは自社の著作物が無断利用されることに対して、厳しい姿勢をとることで知られる。もし、ディズニーの許可を得ずに口パク動画をつくり、ネットに投稿したら、著作権法的には問題となってしまうのだろうか? 著作権にくわしい唐津真美弁護士に聞いた。
●本来は「許可が必要」な行為
唐津弁護士は「YouTubeのようなサービスについては、そもそもどの国の法律が適用されるかという問題があるのですが、今回は、日本の著作権法を中心に説明したいと思います」と前置きしたうえで、次のように語り始めた。
「口パク動画を作成・投稿する場合、CD等の既存の音源を演奏(再生)し、データとして固定(複製)した上で、さらにアップロードすることになるでしょう。
つまり、楽曲の演奏権、複製権、送信可能化権(いわゆるアップロード権)の3つが問題になります。
楽曲の演奏(再生)については、家族だけが乗った車内で演奏するような場合はそもそも『公に』演奏したことになりませんし、その場に観衆がいる場合でも、著作権法が規定する非営利の演奏に該当すれば、著作権侵害にはなりません。
しかし、無断で口パク動画を作成してアップロードすれば、少なくとも楽曲の著作物の複製権と送信可能化権を侵害することになるでしょう」
侵害にならないように口パク動画を投稿するためには、本来、著作権者の許可が必要となるようだ。
「次に、著作隣接権という権利も問題になります。楽曲CDについては、レコード製作者(レコード会社の場合が多い)が複製権と送信可能化権を持ち、実演家(演奏・歌唱するアーティスト)も録音権と送信可能化権を持っています。
CD音源を利用した口パク動画の投稿にあたっては、楽曲の著作権の処理に加えて、レコード会社やアーティストの許諾も得る必要があります。もっとも通常は、アーティストの著作隣接権は契約によってレコード会社に譲渡されているので、レコード会社から許諾を得れば足りることになります」
●投稿動画サイトが「包括契約」を結んでいるケースも
そうした許可を個人でもらうのは難しそうだが?
「そうですね。投稿者が個別に許諾を得ることは大変です。そこで、いくつかの動画投稿サイトは、権利処理について著作権管理団体やレコード会社と契約を結んでいます。
たとえば、YouTubeやニコニコ動画は、JASRAC等の著作権管理団体と包括契約を締結し、この結果、これらの著作権管理団体が管理する楽曲を含む動画であれば、投稿者が個別に許諾を得なくても、アップロードできることになっています。
JASRAC等が管理するのは『著作権のみ』なので、CDに収録された原曲を使用した投稿の場合はレコード会社等の許諾が必要です。ただし、動画投稿サイトがレコード会社とも利用許諾契約を締結している場合があり、これらのレコード会社が許諾した楽曲であれば、投稿することが可能になっています」
それでは『アナと雪の女王』の楽曲は?
「CDに収録された原曲の利用については、CDのレーベルである『WALT DISNEY RECORDS』と動画投稿サイトの間で、対象楽曲 の利用を許諾する合意がない限り、レコード会社等の著作隣接権を侵害することになります」
投稿先のサイトがそうした許諾合意をしているか、調べてみるのがいいだろう。
「また、著作権についても、音楽と映像を同期させて録音する行為については、日本の楽曲と外国曲では取り扱いに差があるので要注意です。アメリカを含む複数の外国では、そうした行為に『シンクロナイゼーション・ライツ』という特別な権利がはたらくとされています。
『シンクロナイゼーション・ライツ』の部分については、JASRACのような著作権管理事業者に管理が委託されていない場合も多いのです。そのため、JASRACの管理楽曲の場合でも、個人以外の企業・団体等が外国曲を同期させて固定する場合には、別の手続きが必要とされています」
このように唐津弁護士は注意点を述べていた。
ただし今回、『アナと雪の女王』の口パク動画については、海外だと再生回数が1000万回を超えるものも出ているにもかかわらず、削除される様子がない。今のところは権利者側が、このブームを好意的に受け止めているということだろう。