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売りたい不動産の隣は「ワケあり一家」住人が薬物中毒で暴行事件...告知すべきか?
画像はイメージです(よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA)

売りたい不動産の隣は「ワケあり一家」住人が薬物中毒で暴行事件...告知すべきか?

不動産を売却したいが、隣にある「疑惑の家」について告知する必要はあるのかーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに、ある男性が相談を寄せました。

男性によると、売りたい不動産の隣に建つ家は「疑惑の家」。そこに住む40代の息子は薬物依存症で長年入退院を繰り返しており、先日暴行事件を起こして逮捕されたそうです。数年前には、 息子から長年暴行され続けた父親が突然死亡したといいます。

息子が暴行事件を起こすたびに、母親は近隣にお金や贈り物を配って口止めしているといい、町全体が「異様な雰囲気」に包まれているそうです。

不動産屋からは「不動産を売却する時は告知する義務がある」「隣でも告知して売却する場合は、かなり値引き交渉される」と言われたそうです。

今回のように、売りたい不動産の隣に「ワケありの家」が建っているという場合、売り主は買い主にその旨を告知する義務はあるのでしょうか。 高砂健太郎弁護士の解説をお届けします。

●「客観的にトラブルが発生していれば、告知すべき」

宅建業者は、不動産を買おうと考えている人に対して、その物件に関する重要な情報を知らせる必要があります。これを「重要事項説明義務」といいます。

売主が宅建業者でなければ、原則的には重要事項の説明義務はありません。しかしながら、宅建業者でなくとも、ウソの情報を告げたり、一定の前提のもとであえて情報を告げなかったりすると、説明義務違反を理由に損害賠償請求をされることがあります。

もちろん、噂や、知っていることを何でもかんでも買い主に告げればいいということではありません。客観的なトラブルの事実がないのに、「疑惑」程度の噂だけで、「隣人は薬物依存症だ」などと言うのは、プライバシーの侵害になりますから、控えたほうがいいでしょう。

告知しなければいけない事柄かどうかの判断は、それが客観的な事実であるかどうかが基準の一つになります。例えば、「隣人が暴れて近隣からの苦情で何度も警察が介入している」「これを知った購入希望者がキャンセルした」といった、客観的トラブルが発生している場合なら、買い主への説明義務が発生する可能性があるといえます。

実際に裁判でも、客観的事実を知りながら告知しなかったことについて、非宅建業者である売主に、説明義務違反による損害賠償責任を認めた例があります(大阪高等裁判所平成16年12月2日判決)。

このケースでは、(1)売主が建物に引っ越してきた翌日に、隣人から「子供がうるさい。黙らせろ」と苦情を言われていた、(2)隣人に洗濯物に水をかけられたり、泥を投げられたりしていた、(3)売主が自治会長や警察に相談していた、(4)以前、購入希望者に建物の内覧をさせた際、隣人が「うるさい」と苦情を言い、購入する話が流れた、という事実がありました。

今回のご質問のケースでも、すでに客観的なトラブルになっていれば、売却の際、正直にお伝えすることをお勧めします。

(弁護士ドットコムライフ)

プロフィール

高砂 健太郎
高砂 健太郎(たかさご けんたろう)弁護士 中崎町法律事務所
不動産仲介会社勤務を経て、旧司法試験合格。勤務弁護士を経験後、平成22年中崎町法律事務所を開設。不動産、企業、相続部門を重点的に扱い、物件オーナーや不動産管理会社等と多くの顧問契約を締結している。

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