2019年05月06日 09時45分

コインハイブ事件、無罪判決に残された課題 「不正指令の基準を明確にして」専門家の声

出口絢 出口絢
コインハイブ事件、無罪判決に残された課題 「不正指令の基準を明確にして」専門家の声
セミナーで講演した高木氏(左)と平野弁護士(2019/4/26、出口絢撮影、東京都)

「不正指令電磁的記録に関する罪」(通称ウイルス罪)に関する摘発事例が相次いでいる。しかし、その「ウイルス」の定義は曖昧なまま「いたずらプログラム」なども検挙されており、ITエンジニアからは「どこからが犯罪なのか」と不安視する声が多数上がっている。

3月には横浜地裁で、自身のウェブサイト上に他人のパソコンのCPUを使って仮想通貨をマイニングする「Coinhive(コインハイブ)」を保管したなどとして、不正指令電磁的記録保管の罪に問われたウェブデザイナーの男性(31)に無罪が言い渡された(検察側が控訴している)。

このコインハイブ事件で男性の弁護人を務めた平野敬弁護士、弁護側の証人として出廷した情報法制研究所(JILIS)理事の高木浩光氏が4月26日、都内で開かれたイベント「不正指令電磁的記録罪の傾向と対策」(主催・一般社団法人日本ハッカー協会)に登壇。

平野弁護士は刑事手続やコインハイブ事件の弁護活動、高木氏は地裁判決の振り返りと控訴審の展開について語った。

●「警察や検察のやっていることが、法律に即しているのか」

日本最初のネット犯罪摘発事例と言われているのが、1996年の「ベッコアメ事件」。わいせつ画像をHPにあげたユーザーとインターネットサービスプロバイダ「ベッコアメ」がわいせつ図画公然陳列罪の疑いで家宅捜索を受けた。

その後、1996〜98年にかけてわいせつ画像関連の摘発が続いた。平野弁護士は「20世紀最初から警察とITエンジニアの間には、緊張関係があった」と振り返る。

では、自分が犯罪行為を疑われたらどうしたらよいのか。平野弁護士は「警察や検察のやっていることが、法律に即しているのかを意識してください」と呼びかける。憲法31条は犯罪捜査手続きの大原則として、「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない」と定めている。

そして、平野弁護士はより具体的な3つのルールとして「黙秘権」「令状主義」「弁護人選任権」をあげた。

黙秘権は、捜査でも公判でも、黙っていることができる権利のこと。黙秘権がある理由について「警察や検察は多くのスタッフと公権力を使って無限に証拠収集できる、非常に強い権力を持っているためだ」と話す。

警察官が「私は」と一人称で書面を作成し、被疑者が言っていないことも書かれている「作文調書」問題に触れ、「一旦不利な供述調書を取られた場合、後から覆すのには、任意性や信用性がないことを証明しなければならず、極めて困難。一旦黙秘しておけば、弁護人と相談してから供述内容を決められる」と黙秘権の意義を語った。

2つ目は、令状主義だ。逮捕には現行犯逮捕の場合を除いて逮捕状が必要で、捜索や差押をするには捜索差押許可状が必要になる。

しかし、強制処分ではなく任意処分なのか疑わしいこともある。例えば、自宅に行ってパソコンを押収する場合、強制処分としても押収にあたるので令状がないとできない。しかし、関係者の任意提出を受けて押収することはできる。そのため、警察が何かを指示する時、令状に基づく強制処分なのか、任意のお願いなのかを警察に聞くことが重要だという。

3つ目は、被疑者が弁護人と接見し援助を受けられる「弁護人選任権」。国が弁護士費用を負担し選任する「国選弁護制度」は、資力が50万円未満に満たない場合で、かつ、公判段階もしくは身体を拘束されて取調べを受ける「身柄事件」の捜査段階でしか利用できない。

ITに強い弁護士でも刑事事件を取り扱っていなかったり、その逆パターンもあるため、「弁護士に紹介を頼むのがベスト」と話した。

会場に集まったITエンジニアからは「任意捜査を断る時のテクニックは」「家宅捜索を2時間待ってもらったというが、どのようにやったのか」など、具体的な方法について質問が相次いだ。

「自分の行為が罪にならないようにするには、どうすれば良いのか」という質問には、「一般論としていうならば、技術者倫理を遵守して、プライバシー尊重、データ取得の同意をえて行うことなどではないか」と答えた。

●罰金10万円の事件で、どこまで争うのか

コインハイブについては、2018年中に28件21人が検挙されている。このうち、平野弁護士はウェブデザイナーの男性を含む5件を受任したという。

罰金10万円の事件で、どこまで争うのかは悩ましい問題だ。ウェブデザイナーの男性のケースが法廷で争われることになったのは、横浜簡裁が罰金10万円の略式命令を出した後、男性が命令を不服として正式裁判を請求したためだ。

平野弁護士は「警察の言うことを聞いていれば、罰金刑ですむし、言いなりになっていればいいのではないかという意見もある。これが必ずしも間違ってるとは思わない」と語る。

一方で、警察に対して譲歩した場合、何が起きるのか。平野弁護士は「別の事件の時に、あの時いけたからこれでいけるはずとなってしまう。これが積み重なることで、警察や検察の捜査が横暴になっていく」と摘発が勢いづくことを懸念する。

そして、憲法12条の一文「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない」を紹介。

「いくら黙秘権や令状主義があっても、それを国民が活用せずに、国家権力のいうがままに言いなりになっていたら、有名無実のものになってしまう。公のために戦えとは言わないが、ちょっとだけこのことを思い出してください」と話した。

●「ウイルス罪の趣旨に立ち戻れば、当然の判決」

高木氏は、コインハイブ事件の無罪判決を「賛否両論のものは不正指令に該当しないと判断したもので、本来のウイルス罪の趣旨に立ち戻れば当然」と評価する。

コインハイブ事件の争点は、以下の3点だった。

(1)コインハイブは不正指令電磁的記録にあたるか
(2)「実行の用に供する目的」があったと言えるか
(3)故意があったと言えるか

刑法上の「不正指令電磁的記録」にあたるかについては、「反意図性」と「不正性」の2つの要件がある。

プログラムの指令が「不正」かどうかについて、判決は、有益性、必要性、有害性、関係者の意見などを総合的に考慮し、「機能の内容が社会的に許容しえるものであるか否かという観点から判断するのが相当」と示した。

その上で、コインハイブは、ユーザーの評価が賛否両論に分かれていたことなどから「プログラムコードが社会的に許容されていなかったと断定することはできない」と判断した。

●本来「不正指令」とされるべきプログラムは何か

では、どのような場合に「不正指令電磁的記録に関する罪」(通称ウイルス罪)が適用されるべきなのだろうか。高木氏は「誰にとっても実行の用に供されたくないものだけが、不正指令とされるべき」と話す。

例えば、自己増殖機能をもつワームやファイルを放流する暴露ウイルスや電話帳を盗むスマホアプリ、LINEやGPS監視アプリの無断インストールなど「社会に大迷惑がかかり、常識的にみて、誰もこんなプログラムは動かしたいと思わないもの」が対象だとみる。

加えて、「後戻りできない結果を引き起こす性質のものという区切りがある」と指摘。「コインハイブは、CPUが少し使われて、誰かが儲かっているだけだ」と話した。

●危険なプログラム、形式的な同意があれば合法?

判決で弁護人の主張と食い違ったのが、コインハイブが「人の意図に反する動作をさせるプログラム」と反意図性が認められた部分だ。

検察官は論告で、刑法典の注釈書「大コンメンタール刑法」を引用し「意図に反するならば、保護法益を侵害するものと言える」などと主張していた。一方、引用先の「大コンメンタール刑法」は、「『意図』についても、(プログラムに対する社会一般の)信頼を害するものであるか否かという観点から規範的に判断されるべき」としている。

高木氏は「検察側の論告は、全く逆のことを言っていて明らかな誤り。判決も『規範的に』という字句が欠けていて、検察官と同じ誤読をしている」と指摘。加えて「有罪か無罪かの判断を、同意取得の有無に頼ることは危険だ」と話す。

「危険なプログラムも形式的な同意があれば合法になってしまう。逆にジョークプログラムは常に同意がないが、こちらが犯罪ということになりかねず、バランスを欠いた判断の温床になりかねない。行為者に犯罪を犯す意思や認識があったかどうかが問題で、同意が示されているかどうかではない」

コインハイブの設置は、コンピュータープログラムに対する社会的信頼を害したと言えるのか。控訴審ではこの観点が「議論の本丸になると思う」と高木氏はいう。「誰にとっても汚らわしいものだけが不正指令であるべき。その基準が明確になればいいと思う」と控訴審に期待した。

(弁護士ドットコムニュース)

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この記事へのコメント

匿名ユーザー 30代 男性

>「コインハイブは、CPUが少し使われて、誰かが儲かっているだけだ」

「~だけだ」って何?

ここが根本的に間違っており、大変傲慢な意見だと感じる。「自分のコンピューターのCPU」を、どうして一部の人間の金儲けの為に「使わせてあげる」事を容認しなければならないのだろうか?

しかも所有者が、知らない内に。

彼らはそれが「当然」だと思っているわけでしょ?

これは「1億円盗むのは大罪だが、5百円くらいだったら いいんじゃね?」と言っているのと同じだと思う。正に小額の万引き犯の言い分だ。

盗む方からすれば「少し」と思うだろうが、盗まれる方からすれば5百円だから構わないとはならない。それが、その人の生活に影響しなくてもだ。

また、こうも考えられる。

もし誰かがアナタの留守中に家に上がりこみ、勝手にシャワーを使ったらどうだろうか?

シャワー1回分の水道料金やガス料金は、大した事ないだろう。おそらくは料金が一段階上がる前の使用量に含まれて、損害は殆ど無いと思う。

だったら良いの?

でも正直言って「気持ち悪い」事、この上なくない?。バレなければ、それで良い?

被告を支援している人たちは、そういう「気持ち」の部分を全く無視していると思う。

まぁ、人の家のシャワーを無断で使って自分がサッパリしておいて「別に大した事じゃないジャン」と思っている人達に、何を言っても無駄なのかも知れないが。

「技術の発展の前には、そんなものは卑小な事だ」という詭弁を吐く技術者が多いのもわかる気がする。

せっかくの新技術が、人の気持ちを無視する事を何とも感じない、思いあがった人たちのせいで頓挫するのは如何にも残念だ。

技術力の前に、まず人間力を磨いてね。

匿名ユーザー 男性 40代

その理屈ですと、ページを閲覧するPCのCPUパワーを使うweb広告は全てアウトという事になりますが。
最近よくある動画広告は特にこちらのCPUパワーを削りに来ているので言語道断ですね。
広告会社を訴えますか?

まさる 男性 30代

留守宅シャワーの例えは間違っている。

WEB表示は、サーバー側PCとクライアント側PC(つまり今あなたがみてるPC)の共同作業であり、そのリソース(CPUやメモリ)をどう分配するかはエンジニアに委ねられている。この部分の認識が皆足りてない。あなたのPCのリソースはあなたが見たい画面の表示のためにサーバー側に随時貸しているのだ。その貸しているリソースの範囲内で「少し使わせて誰かが儲けている」のだ。


いまあなたが見ている画面の色や線や文字の配置や画像の表示は「サーバー側の指示であなたのPCのCPUを使っている」。これは留守宅シャワーではなく「出張お掃除に呼んだ家政婦が掃除に使った雑巾を洗うついでに自分の手とお弁当のお箸を洗った」という程度のものだ。

匿名ユーザー 男性 30代

>出張お掃除に呼んだ家政婦が掃除に使った雑巾を洗うついでに自分の手とお弁当のお箸を洗った

これも間違っていると思う。
閲覧者は訪問者であり、「家に入る際には、手を洗うついでに皿を洗って」という感じ。(悪意があるサイトだと「家に入る際にはクレジットの暗証番号を書いておいて」みたいになるのかな?)

CPUの使用率が高ければそれが大掃除になるのかもしれないが、訪問しなければCPUは利用されない。

自分のPCでサイトを見ているけど、そこは他人のものであって自分のものではない。
他人のものであるからこそ、使わせてもらうことへの敬意を払うべき。
逆に自分のものでない限りは疑うこともするべき。

匿名ユーザー 男性 40代

これについては「Web広告は有罪であるか」が問題になっています。

> 「コインハイブは、CPUが少し使われて、誰かが儲かっているだけだ」
というのは
「Web広告は、CPUが少し使われて、誰かが儲かっているだけだ」
に置き換えた場合、言い訳の余地もなく100%その通りなのですが、なぜそれは見逃されて、coinhiveは犯罪者になるのでしょうか、という問題提起なのです。
広告は場合によってはCPUだけでなく動画でギガを浪費したりもしますね。そういったことを許容するのであればcoinhiveも許容すべきです。

なお、法律家の中には「すべてのWeb広告は有害だし有罪である、coinhiveも当然有罪だ」と主張する人が実際います。
あなたがこの方と同様のスタンスなのであればそれはそれで筋が通っているのでありだと思います。

匿名ユーザー

他の方々のご指摘の通り、例えが的を射ておりません。
また、広告は表示されるから邪魔であり排除すべきものとの流れで
コインハイブが提案されたため、その流れを理解せずに言うのは違和感を感じます。
まともな倫理観を養っていただければと思います。

匿名ユーザー 男性 30代

あなたの長々不適切で技術的素養のないなコメントを表示するのに、不正に私のCPUパワーを使われてしまいました。社会通念上、許されることではないと思います。あなたを訴えたいです。

と言われてるのと同等かと思うのですが、どうでしょうか。

匿名ユーザー 男性 30代

いつもご覧になっているサイトでキーボードのF12を押してみてください
そこにそのページのソースコードが全て出ています。
その全てに対して、あなた自身が許容していないモノがないという事で
いいですね?

もしこれら全てに対して許可が無いとページが見れないとします。
するとあなたは無数の「許可する」の連続クリックと時間を費やした後、目的の情報に辿り着きます。
そしてページが変わる度にその作業が必要になります。これは嫌ですね。

ユーザーの許可によって閲覧できるのは大手アダルトサイトぐらいじゃないでしょうか。

googleならばトラッキングクッキーと言って検索や
閲覧したページジャンルに応じた広告が出てきます。
これは完全に「知らないうちに」の範囲です。
googleが勝手に「ほら、あなたの興味あるものだけ出てきて便利でしょ」と言わんばかりです。
全てとはいいませんが、はっきり言ってじゃまだと思った事はありませんか?
しかしこれは、あなたには無断で
「あなたの興味があるものの関連情報は常に受け取っています」
という事です。これも全面的に許容していますか?

無料で見れるサイトも
その管理者はドメイン所持、サーバー管理など
月々のランニングコストがかかっている事を忘れないでください。
その管理者があなただとして、本当に無料でサービスし続ける事は
ただのボランティアの何物でもありません。

しかし、あなたがそうしてせっせと更新していながら
あなたは常に赤字で運営するとします。

これ以上は続けられないと思い
更新をストップします。
そうするととたんにユーザーから復活の声が多数届きます。

じゃぁみんな赤字分どうにかしてよと思いますよね。
それを補填する為の広告であり、なにかしらの収益を得ない限り
無料で情報を公開するサイトは運営できません。

今回は確かに、明示するしないのマナーの問題はあったにせよ
広告としての役割以外の何物でもありません。

仮に意図を明示したとしましょう。ページ閲覧する際に
「広告の代わりにマイニングによって収益を得る為、ページ閲覧中に多少のCPU電力を使用します。」
という許可とポップアップがいちいち出てくる事になります。

この用途に限った使い方に対して、
またコインハイブの構造自体がそれ以上の使用方法が許されていない事を含めて
あなたはこれを完全に罪だと言い張るおつもりですか。

見当違いもいい加減にして欲しいと思います。
あなたは知らなかったからごめんなさいで済むかもしれません。

しかし警察は人を逮捕監禁できる強権力を持っている為
ミスは原則として許されません。
そして彼は罪かどうかが疑わしい事で犯罪者と言われている状況です。
それは警察として検察としておかしくないですか?
そういう話です。

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匿名ユーザー 30代 男性

使うなら使うと一言いうのが大人としてのマナーだ。
ユーザーの利便性・効率的な処理のためなど、何も大義名分もなく電気を消費するだけなのだから。

匿名ユーザー

web広告が「これから動画の広告流していいですか?」っていちいち聞いてこないけど、cpu使ったのが罪になるならweb広告も罪になるよねってはなしなわけで、、、

匿名ユーザー 男性 30代

確かに明示した方が親切ですね
そして明示した方が裏でなにか動いているんだと認識する事ができる。
しかしそれで言うと
いつも勝手に出てくる広告は認識するしないに関わらず実行されている訳で、
もしかしたらこの広告そのものがマイニングツールかもしれず
はたまたウィルスではない保証はどこにあるんでしょうか。

その不確実性を現段階で許容してネットを利用している以上
このコインハイブを悪だというのはあまりにも暴論だと言いたくなります。

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匿名ユーザー

2019年05月06日 22:16 投稿の人は世の中がすべて無料サービスでなければならないという信念の人ですね。
ウェブサイトを開設・維持し、何らかのコンテンツを作成して公開することにも費用がかかっていることもわからないかわいそうな人が令和の世の中にいたんだねえ。対価を求めることが悪だというのなら、あなたが働いて報酬を得ることも悪です。一生タダ働きしてから言うべきですよ。

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匿名ユーザー

> 使うなら使うと一言いう
Web広告はそんなことは「絶対」に一言も言わずに使ってるんですがね。
広告の画像が見えてる?その画像はダミーですよ。知らないだけです。

それが証拠に、その広告の画像を表示したら(+裏のJavaScriptを動作させたら)、誰がどのように儲かるか、説明されたことあります?ないですよね。
「一言も言うことがない」のはWeb広告も全く同一です。

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