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「2度と刑務所に戻らない」出所者の決意を支援、元受刑者の取組み
佐々木満男弁護士(左)、五十嵐弘志さん(右)

「2度と刑務所に戻らない」出所者の決意を支援、元受刑者の取組み

刑務所から出所した人に弁護士はなにができるのか。3月19日、東京・霞が関の弁護士会館で講演会「出所者の生活・就労支援と弁護士活動について」が開催された(主催:第一東京弁護士会刑事法制委員会)。

講演会には、服役中の受刑者や刑務所を出所した人の支援をおこなっているNPO法人「マザーハウス」理事長の五十嵐弘志さんと理事を務める佐々木満男弁護士が登壇。マザーハウスにつながった出所者数人も体験談を話した。

自らも前科3犯、約20年以上を刑務所で過ごした五十嵐さんは、本格的な社会復帰の前に「社会に土台をつくることが必要」と訴えた。

●「携帯電話を借りられない」「住む場所がない」

刑務所から出所した人には、多くの壁が立ちはだかる。特に苦労するのは、携帯電話を借りられないこと、住むところがないことだという。

警察や刑務所が携帯電話の解約手続きをおこなうことはない。受刑することになれば、携帯電話は契約されたままの状態で留置所から刑務所にうつされることになる。

「出所後に携帯電話を返してもらえますが、今までの料金を払わなければ使うことはできません。払っても使うことができない場合もあります。派遣社員であれば、多くの場合、メールなどで仕事の連絡が来ます。しかし、連絡手段となる携帯電話がないのです」

解約もできなければ、新規の契約もできない。携帯電話やスマホが必須の時代に、それは社会復帰の大きな障壁となる。

「住むところを借りるのも困難です。私の場合、出所時の作業報奨金は9万円でした。その9万円で、都内でアパートを借りるのは100%無理です」(五十嵐さん)

マザーハウスでは、住む場所として、各々にアパートを用意しているという。6回の服役経験がある高橋さん(40代・仮名)は、マザーハウスに感謝を示した。

「屋根がある場所に住むことができる。それだけで感動しました。そんな自分に五十嵐さんは『テレビがなくて悪かったな』と言ったのです。屋根があるだけで十分なのに…これはしっかりやっていかなければと思いました」(高橋さん)

●社会復帰は人間関係の「土台」があってこそ

就職支援についても、五十嵐さんは慎重だ。出所して間もない受刑者には、仕事はしないように言い聞かせているという。

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「社会の『常識』は、刑務所では『非常識』になります。つまり、刑務所の常識を身につけてきた人間に社会の常識は通じないのです。

自分の過去を知られたらどうしようというプレッシャーの中で仕事に行き、潰れてしまうこともあります。その結果、再犯してしまった人もいます。社会に土台がない状況で仕事をするのはとても大変なことです。

まずはボランティア活動や教会に行くなどして人との交流を持ち、社会に各々の土台をつくることが大切です」(五十嵐さん)

五十嵐さんは、出所者に生活保護を受けることを推奨している。ただし、酒やギャンブルなどに走ってしまわないように、受給期間は1年間という制約を設けているそうだ。毎月の生活費が出る中で、まずは社会に土台をつくることが重要だと五十嵐さんは強調する。

●目標は2度と刑務所に戻らないこと

刑務所の出所者に対する社会の目は厳しい。ときに、生き直そうとする出所者を追いつめることもある。2人の出所者が体験談と思いを語った。

宮原さん(30代・仮名)は「自分でやっていける」とマザーハウスを飛び出したときのことを振り返った。

「仕事を始めて2、3カ月経ったころに飲みに誘われ、その場にいた人たちに刑務所にいたことを話しました。すると、次の日に会社で呼び出されて『刑務所に入っていた人を会社に置いておくのは、社会の目があるからちょっと…』と言われてしまったのです。

退職を迫られていることが分かり、その翌日に会社を辞めました。幸い、マザーハウスに『帰ってきていいよ』と言われ、救われたのを覚えています。今は新しい仕事をしています」(宮原さん)

マザーハウスでは、引越し業務、換気扇の掃除なども請け負っている。客先に向かった木下さん(50代・仮名)は、依頼者の家族が「なぜ刑務所を出所した人にお金を使わなければならないのか」と話しているのを耳にしたことがあるという。

「自分たちがしてきたことを考えれば、仕方ないと思います。私たちの目標は2度と刑務所に戻らないこと。犯罪者が少なくなれば、被害者も少なくなります。与えられた仕事を精一杯おこない、理解ある人たちが依頼してくれることを真摯に受け止めたい」(木下さん)

●「本気で向き合ってくれる」弁護士との出会い

なぜ五十嵐さんは立ち直ることができたのか。

「今の自分がいるのは、ずっと自分と関わってきてくれた人がいるからです。本気で向き合ってくれる弁護士に出会えれば、回復の道を歩むことができる」と、五十嵐さんは佐々木弁護士との出会いを振り返った。

拘置所で聖書を読み、キリスト教に興味を持った五十嵐さん。キリスト教関係の新聞でクリスチャンの佐々木弁護士を知り、「弁護士の先生がなぜキリストを信じたのか知りたいのです」という手紙を佐々木弁護士に出した。手紙を読んだ佐々木弁護士は東京拘置所に出向き、五十嵐さんと面会した。

「まさか来てくれるとは思わなかったので、涙が止まりませんでした」という五十嵐さん。佐々木弁護士との出会いを契機にキリスト教を学び、出所後にカトリックの洗礼を受けた。

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約10年間、受刑中の五十嵐さんと文通を続け、身元引受人も引き受けた佐々木弁護士。出所後も五十嵐さんと関わり続け、マザーハウスでも理事を務めている。

「マザーハウスでは、喧嘩、失踪、再逮捕などトラブルは尽きません。支援する弁護団もありますが、すべてに対応しきれない現状があります。協力してもらえる弁護士がいれば」と佐々木弁護士は呼びかけた。

五十嵐さんは「弁護士の先生方がマザーハウスにつないでくれれば、自分にできることは全力を尽くしたい」と意気込みを示した。

(弁護士ドットコムニュース)

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