父親を包丁で刺して殺害したとして殺人罪に問われた少年(19)に、横浜地裁(深沢茂之裁判長)は2月19日、懲役4年以上7年以下の不定期刑を言い渡した。
産経新聞などの報道によれば、事件が起きたのは2018年1月。少年は当時高校2年生(18)だった。父親は少年や母親に暴力を振るっていたという。少年は口論になった両親をみて、母親が殴られると思い、とっさに犯行に及んだと主張していた。
裁判所は家族に対する父親の暴力があったことは認めたが、「あまりに短絡的で、正当化できない」とした。
不定期刑とは、どのような制度で、どのような課題があるのか。少年事件に詳しい神林美樹弁護士に聞いた。
●弾力的な「不定期刑」 少年の改善更生のために
ーー不定期刑はどのような制度なのでしょうか
「判決の言渡し時に少年である者に対して、有期刑を科す場合には『懲役○年以上○年以下』というように、刑の短期と長期を定める必要があります。これを不定期刑といいます。
少年法52条は不定期刑について、以下のようなルールを定めています。
(1)処断するべき刑の範囲内で長期を定めるとともに、長期の2分の1(長期が10年を下回るときは長期から5年を減じた期間。以下同じ)を下回らない範囲内で短期を定める。
(2)長期は15年、短期は10年を超えることはできない。
(3)短期については『少年の改善更生の可能性その他の事情を考慮し特に必要があるとき』は、処断するべき刑の2分の1を下回らず、かつ、長期の2分の1を下回らない範囲内で定めることができる。
少年法が不定期刑を設ける趣旨は、人格が発達途上で可塑性(反省し、立ち直ることができる柔軟さ)に富み、教育的な働きかけによって短期間で改善更生しうる少年について、処遇の弾力性を認めることにあります。
処分に弾力性を認めることにより、少年に改善更生の自覚を持たせて変化(更生)させる、という狙いがあるのです」
●仮釈放が認められるのは、長期の8割以上が経過した後
ーー短期の年数で刑期を終える少年もいるのでしょうか
「地方更生保護委員会は、刑の短期を経過した少年について、少年を収容している刑事施設または少年院の長から申出があった場合に、刑の執行を終了するのを相当と認めるときは、終了決定をしなければなりません(更生保護法43・44条)。
しかし、実際には終了決定を受ける人はほとんどいないのが実態です」
ーーどれくらいの年数が経てば、仮釈放が認められるのでしょう
「実務上は、刑の長期を基準にして仮釈放を決定しています。実態としては『長期を刑期とした定期刑』に近い運用になっているといえます。
2017年度『保護統計調査』によると、その運用実態は以下のとおりです。
・不定期刑仮釈放許可人数の総数:29人 ・長期を基準とした刑の執行率:69%以下→0人、70~79%→3人、80~84%→4人、85~89%→7人、90~94%→13人、95%以上→2人 ・短期経過前の仮釈放許可人数→1人のみ
このような実態からすると、不定期刑の言い渡しを受けた少年に仮釈放が認められるのは、長期の8割以上の期間が経過した後になる可能性が高いといえます。
仮釈放は、悔悟の情があり、更生の意欲を有し、再犯のおそれがないなどの事情から『改悛の状』があると認められる場合に許可されます」
●事件の背景に「虐待」がある場合は詳細な検討を
ーー今回の判決について、父親によるDV被害の影響を十分に汲み取っていないのではないかという声もあるようです
「現状では判決文が公開されておらず、証拠もみることができないため、今回の判決の適否に関して意見を申し上げることはできません。
ただ、一般論として、親からの虐待を受けた少年は、情緒や心理面に大きな悪影響を受けた結果、親の言動に過敏になり、ささいなことで傷つき、虐待を回避しようと攻撃的になりやすくなることが多々あります。そのような少年の特性をきちんと理解しなければならないと思います。
事件の背景に『虐待』が存在する場合には、虐待の内容や、虐待が少年に与えた影響の内容・大きさ、その影響と事件との関連性などについて詳細に検討することが重要です。この事件についても、今後そのような検証が必要でしょう」