川から橋まで、その高さ約200メートルーー。岐阜県のV字谷にかかる「新旅足橋」の歩道に靴を揃えて放置し、自殺を偽装したとして、50代の男性が5月8日に逮捕された。警察官を無駄に出動させた「偽計業務妨害」容疑だ。
中日新聞(5月8日)によると、「犯行」時間は4月27日午前5時40分ごろ。直後に通りかかった男性が靴を見つけ通報した。警察官ら10人が約8時間にわたり、川などを捜索したという。
男性は容疑を認めているそうだが、靴を置いただけともいえる。本人が通報したわけではないのに、どうして犯罪になるのだろう。伊藤諭弁護士に聞いた。
●かつてはユーチューバーの「白い粉」事件も
「偽計業務妨害罪が成立するのは、人を欺く、人の錯誤・不知を利用する、計略や策略を講じるなどして他人の業務を妨害した場合です。法定刑は、懲役3年以下か罰金50万円以下になります。
深い谷にかかる橋に靴をわざと置くことによって、これを見た他人に『靴を残して谷底に飛び降りて自殺した人がいるかも知れない』という勘違いを起こさせて、本来は不要な捜索をさせたというのがこの事件です。
偽計業務妨害罪が成立するには故意(わざと行うこと)が必要ですから、靴をうっかり置き忘れたなどというだけでは犯罪は成立しません。
単なるいたずらなのに大げさなという主張もあるかも知れませんが、靴が放置されていることを通報された警察としては、本当の事件や事故の可能性が否定できない以上、職務として捜索をせざるをえないわけですから、わざとそのような行為をすれば犯罪が成立します。
自分自身が虚偽の通報をした場合はもちろん、これを見た事情を知らない他人が通報するであろうことを利用した場合でも犯罪の成立に影響はありません。
ユーチューバーが警察官の前で『白い粉』をわざと落として逃げ出したことが偽計業務妨害罪にあたるとして逮捕された事件(2017年)では、罰金40万円を言い渡されています。また、最近はエイプリルフールの『ネタ』として度が過ぎるいたずらをするケースもあるようです。軽い気持ちでいたずらをすると取り返しのないことになりかねません」