電車内で女性の髪の毛を切ったとして、愛知県の大学院生の男性(23)が12月上旬、傷害の容疑で現行犯逮捕された。
報道によると、男性の逮捕容疑は、12月5日午前7時40分~55分頃、名鉄名古屋本線の走行中の車内で、会社員の女性(40)の髪の毛をはさみで約35センチ切った疑い。髪を切った理由について、「ネットオークションで売るため」「これまでも電車内で女性の髪の毛を切った」などと供述しているという。
髪の毛を切っても、具体的にケガをするといったことはないはずだが、なぜ「傷害」の容疑で逮捕されたのか。販売目的だった場合、何か問題があるのか。村木亨輔弁護士に聞いた。
●裁判例では、「傷害」にあたるとしたものと「暴行」にとどまるとしたものがある
「刑法でいう『傷害』とは、『身体の生理機能の障害』または『健康状態の不良な変更』と理解されています。
そのため、例えば、失神させた、性病を移した、ノイローゼにしたというように、外傷を負わせた場合でなくても『傷害』と評価されることがあります。
本件と類似した裁判例としては、女性の頭髪の根本から切除したケースで『傷害』を生活機能の障害であると解釈して傷害罪の成立を認めた判決があります。
その一方で、カミソリで根本から切り取った場合に暴行罪が成立するに留めた判決もあります。
そのため、仮に男性が起訴された場合、果たして傷害罪が成立するかは微妙なところでしょう」
●切った髪の毛を販売することは?
販売目的で髪の毛を切断し持ち去ったような場合、別の罪にあたるのか。
「まず、窃盗罪にあたるかという点が問題になります。ここで問題となるのは、髪の毛が窃盗罪にいう『財物』にあたるのかという点です。
人の生体や死体は所有権の対象とならないので、身体の一部である髪の毛も財物にはあたりません。
そのため、女性の髪を切断すること自体は窃盗罪にはあたりません」
ネット上で髪の毛を販売した場合、さらに別の罪にあたるのか。
「詐欺罪が成立する余地があります。
ひとたび人体から分離した髪の毛は、財物にあたります。そのため、髪の毛と支払った金額が等価的な関係にあるとするならば、一見すると、騙されていないように思えます。
しかし、もし落札した人が、出品されていた髪の毛が、本人の意思に反して切断されたものであったことを知っていれば、落札しなかったと考えられるでしょう。
それなのに、そうした事実を隠して入札・落札させて現金を支払わせた以上、詐欺罪の成立を否定することになりません。
一方で、了解を得た上で髪の毛を取得して販売した場合には、違法薬物や銃剣類等のように法律で禁止されている物を販売するわけではありませんので犯罪が成立することは無いでしょう」