ずっと前に廃業して、古びてしまったホテルや遊園地などを訪れる「廃墟めぐり」がブームのようだ。ネット上では、廃墟めぐりのマニアたちが、世界遺産として登録された「軍艦島」から、あまり知られていない場所まで、数多くの写真を投稿している。
東京都内の企業につとめるMさんは、10年以上前の大学時代に廃墟めぐりと出会った。一般的な観光地にはない、日常とかけ離れた雰囲気や幻想的な光景が魅力的だという。社会人になってからは、訪れる機会がなかったが、最近のブームに乗って、また行きたいと考えている。
しかし、いくら荒れ放題になっている建物や施設であっても、誰かの所有物かもしれない。そんな場所を勝手に探検してよいものなのだろうか。廃墟探検の法的問題について、中村憲昭弁護士に聞いた。
●「廃墟といっても、所有者はいる」
「私も廃墟が好きで、先日も小樽市で開かれた野外展『ハルカヤマ芸術要塞』に行ってきました。その会場の一つには、旧札幌シーサイドホテルの廃墟があります。
ここは妻の両親が挙式した場所でもありますが、いまでは義父母も離婚していて、何ともいえない気持ちになりました」
中村弁護士はこう切り出した。廃墟めぐりの法的問題はどうだろうか。
「廃墟といっても、所有者はいます。
廃墟が建造物かどうかは微妙ですが、所有者の意に反して立ち入れば、建造物侵入罪となりえますし、人が管理していない邸宅や建物に潜むことは、軽犯罪法にも抵触します。
また、廃墟を傷つけたり、落書きしたりすることは、器物損壊罪にもなりえます。ただ、すでに損壊されている建物が保護に値するかという点は問題ですが(笑)」
●「中に立ち入らず、遠目に眺めるに留めたほうがよい」
たとえば、古びた建物や施設が崩れるなどして、探検者がケガをした場合、誰の責任になるのだろうか。
「民法上、建物や施設など、土地の工作物の設置および保存に『瑕疵』がある場合、それによって生じた損害は、建物や施設の占有者、あるいは所有者が賠償しなければならないと定められています。
ただし、もしケガをしたとしても、実際に賠償してもらえる可能性は低いでしょう」
どうして、そういえるのだろうか。
「まず、許可なく廃墟に立ち入ったという点で、ケガをした人にも落ち度があるといえるので、相当程度の過失相殺がされるでしょう。
現実的にも、建物を管理できる能力がないからこそ廃墟になっているわけで、法律上の権利が認められたとしても、賠償をしてもらえる可能性は低いと思います」
このように述べたうえで、中村弁護士は次のようなアドバイスをしていた。
「廃墟は崩壊の危険があるからこそ、廃墟になるわけで、とても危険です。管理されていない廃墟は、中に立ち入らず、遠目に眺めるに留めたほうがよいかと思います」