東京都内の私立大学に通う女子大生のTさんは、海好きが高じて大学入学後にダイビングを始めた。所属するダイビングサークルでは、伊豆や沖縄など国内の海に潜りに行く。そこで気になるのが、カクレクマノミなど、海で出会った魚などを持ち帰ってもいいのかということだ。
Tさんはダイビング中、数十センチという至近距離で、水中カメラを片手に魚を撮影していると「連れて帰りたい」という衝動に駆られるそうだ。「水槽で飼えるような熱帯魚サイズなら捕獲できそうだが、勝手に持ち帰ったらいけないのだろうか」と気になっている。
魚以外にもサンゴなど、持ち帰ったら悪いような気がしているが、実際に何がアウトで何がセーフなのか、今ひとつ理解できていない。たとえば、今度Tさんが訪れる予定の沖縄の海では、何を持ち帰ったらダメなのだろうか。林朋寛弁護士に話を聞いた。
●自然保護と漁業権保障の2つがポイント
「海でカクレクマノミなどの魚を捕獲することについては、おおまかに言うと、自然保護の観点からの規制と、漁業権の保障からの規制の2つが問題になります。
自然保護のための規制の一つとして、自然公園法により自然公園(国立公園・国定公園・都道府県立自然公園)として指定された一定区域内での行為が規制されています。
沖縄の国立公園としては、西表石垣国立公園と慶良間諸島国立公園が指定されています。これらの国立公園内の海域公園地区内において、カクレクマノミなどの魚類やサンゴなどが、捕獲等を規制される動物に指定されています。
『公園』というと、一定の狭い範囲に思われるかもしれません。しかし、意外に広範囲ですので、必要な方は、環境省のHPなどで確認すべきです」
このように、林弁護士は説明する。
「また、沖縄では、自然環境保全法で崎山湾・網取湾海域特別地区が指定され、カクレクマノミなどの捕獲等が禁止されています。
自然保護のための規制は、複雑で多種にわたります。法的な観点からも自然保護の点からも、安易に旅先で動植物の持ち帰りをしないほうが良いでしょう」
では、漁業権からの規制とはどのようなものだろうか。
「漁業権とは、一定の水面で、特定の漁業を一定期間、排他的に営む権利で、都道府県知事等からの免許を受ける権利です。
漁業権は、漁協等に与えられています。水産資源を持ち帰るなどして漁業権を侵害すると、不法行為の損害賠償責任を負うことになり得ますし、漁業法違反の犯罪にもなりかねません。
また、沖縄では、県漁業調整規則で、造礁さんご類の採捕についても罰則があります。サンゴは死骸でも持ち帰らないように気を付けてください」
林弁護士はこのように話していた。